実践リスクマネジメント要覧 理論と事例
企業を取り巻く様々なリスクおよび対応策について、MS&ADインターリスク総研が総力をあげてまとめた一冊です。業種・業界を問わず、企業・組織のリスクマネジメント推進において参考となる一冊です。
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株主代表訴訟とは、会社役員の意思決定や行動等により会社に対して損害を与えたにもかかわらず、会社がその責任を追及しない場合、株主が所定の手続を経たうえで会社に代わってその会社役員の責任を追及する訴訟を提起できる制度である。会社に損害を与えた役員に対して、株主代表訴訟を介して責任追及を行うことで、ガバナンスの適正化を図っていくことが当該制度の目的といえる。
企業・会社役員を取り巻く株主代表訴訟リスクを、発生頻度、発生規模、その他の点から整理した場合、一般的には次のような特徴が挙げられる。
通常の訴訟の場合、訴額に対して裁判所に支払う手数料が決まってくるため、高額な賠償請求をする場合には、原告はそれ相応の手数料を裁判所に支払わなければならないが、株主代表訴訟においては、請求額の多寡にかかわらず、一律13,000円である。このため、原告となる株主にとっては、比較的容易に訴訟提起が可能となっている。また、対象となった会社の株式を一株でも保有していれば原告適格を有することになる(ただし、6ヵ月以上の保有は必須)。
以上より、役員にとって、株主代表訴訟が提訴される可能性は小さくはないと評価できる。
会社法上は、一定の条件を満たす場合を除き、会社役員の責任限度額は設けられていないため、会社役員が追及される損害賠償責任の範囲は、原則として会社役員の義務違反に起因して会社が実際に被った損害のすべてということになる。このため、株主代表訴訟などにおいて、被告役員が支払いを求められる損害賠償金は時として極めて高額なものとなり、実際に訴額が1兆円を超すような事案や、数百億円もの損害賠償を命じる判決も出現している。
株主代表訴訟においては、会社自身は直接の訴訟当事者とはならないが、実際に自社の役員が訴えられた場合、原告・被告双方の利害関係者として、当該訴訟においてどのように対応すべきかの判断の見極めが難しく、会社としての対応に混乱を来しやすいうえに、マスコミ対応などが必要となるケースもあるため、多大なコストとロードを費やすことにもなりかねない。
また、企業経営において、会社利益重視一辺倒の経営スタイルから、ステークホルダーの利益を重視する経営スタイルへの変革が強く求められており、企業責任の厳格化や賠償意識の高揚などの社会環境の変化に伴って、企業責任の追及、さらには役員個人の責任追及の傾向が今後さらに強まるものと予想される。このため、企業や会社役員にとって、株主代表訴訟リスクを含む賠償責任リスク対策の必要性はますます大きくなるものといえる。