コンサルタントコラム

スマート保安について

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
リスクサーベイ
役職名
リスクマネジメント第一部 リスクエンジニアリング第三グループ グループ長
執筆者名
工藤 信介 Shinsuke Kudo

2022.11.17

近年はビッグデータ分析やAI技術の深化に伴ってデジタルトランスフォーメーション(DX)の動きが急速に加速しており、企業の事業環境が大きく変化している。

プラントや工場での保全や事故防止についても同様で、経済産業省が推進しているスマート保安はその1つの例として挙げることができる。スマート保安は石油・化学や、電力・ガス等の産業・エネルギー関連インフラ分野を対象として、設備の状態をデータによって常に把握・監視できる新技術を活用することで、安全性の向上のみならず、人手不足等の課題に対処し、効率性の向上や企業の競争力強化につなげることを企図しており、「①十分な情報やデータによる科学的根拠とそれに基づく中立・公正な判断を行うことを旨として、②IoTやAIなど安全性と効率性を高める新技術の導入、現場における創意工夫と作業の円滑化などにより産業保安における安全性と効率性を常に追求し、③事業・現場における自主保安力の強化と生産性の向上を持続的に推進するとともに、④規制・制度を不断に見直すことによって、将来にわたって国民の安全・安心を創り出すこと。」と定義されている。

スマート保安が提唱されている背景には、石油・化学や電力・ガス等の産業・エネルギー関連インフラ設備の高経年化、保安人材の高齢化によるベテランの引退と採用難による長期的な人材不足、技術・技能伝承力の低下に加え、新技術によるデジタル社会の進展や国際競争の激化、災害の激甚化、環境規制や省エネへの対応などがある。

また、高圧ガス保安分野のスマート保安アクションプランでは、スマート保安の実現に向けたあるべき姿として「スマート化に向けた企業組織の変革」「情報の電子化」「現場作業効率化」「意思決定の高度化」が挙げられている。このうち、「スマート化に向けた企業組織の変革」では、新技術を開発・導入する前に、経営トップからスマート保安の将来像を明確化したうえで、人材育成等の仕組みを構築してスマート保安の実現に向けたIT人材の育成や予算配分の仕組みを構築し、デジタル化を前提とした業務プロセスや働き方を整備することとされている。また、「意思決定の高度化」では、異常発生の検知による事故の未然防止が作業員・監視員の判断の補助・代替となり得ること、異常の予兆検知による運転・保全計画の改善などが示されている。

スマート保安が必要とされる要因である設備の高経年化、人材不足、技術・技能伝承力の低下や自然災害への対応といった事業課題は多くの製造業企業で有している課題でもあり、火災等の災害が発生した際の背景要因として挙げられることが多いものでもある。当社の顧客企業でもセンシング技術等を用いた設備管理の高度化や事故防止施策を検討しているところもあるが、様々な種類の装置・製品があり、導入時の検討事項が多岐に亘るため、導入と現場での運用開始までに時間を要することもあるようだ。

産業・エネルギー関連インフラにおけるスマート保安の導入・実現を進める手順や関連資料は、製造業のDX化を検討する際の参考になる点も多く、ぜひ一読されたい。

以上

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