日本企業の事業継続マネジメント取り組みの動向
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- 情報セキュリティ
- 役職名
- リスクマネジメント第四部 事業継続マネジメント第一グループ マネジャー・上席コンサルタント
- 執筆者名
- 木村 文彦 Fumihiko Kimura
2019.3.12
2011年に発生した東日本大震災から、昨年の西日本豪雨、北海道胆振東部地震に至るまで、日本企業は近年に数度の大規模災害を経験してきた。こうした背景から、日本企業にとって、事業継続マネジメント(BCM)の整備の重要性はより大きなものとなっている。では実際に、日本企業ではBCMにどのように取り組まれているのであろうか。ここでは、弊社で最近実施した、日本国内の上場企業を対象としたBCM実態調査で見えてきた傾向を、今回ご紹介したい。自社のBCMの取り組みと比較して、何かの気づきを得ていただければ幸いである。
- ① 事業継続計画(BCP)を策定している企業の割合は調査対象の6割弱となっており、この数値自体はこの数年で大きくは増えていないものの、BCPを「策定中」あるいは「策定の計画がある」という回答が増加している。この2~3年、特に2016年の熊本地震以降、大規模災害の頻度高まっているなかで、BCPに改めて関心を抱く企業が増えていると思われる。
- ② BCPを発動する事態として想定されているのは「地震・津波」が一番多く、9割超の企業が挙げている。また、近年、西日本豪雨のように大規模な水災が頻発している状況を受けて、「水災(河川氾濫、内水氾濫、高潮)」を想定している企業も半数近くにのぼり、ここ数年着実に増加している。
- ③ BCPに記載する事項としては、「体制(指揮命令系統)」は殆どの企業で挙げられているが、それ以外の事項については企業によって大きく異なっている。そのなかでは、「状況把握や人命安全確保に関する『ルールや帳票類』」、「事業や業務の優先順位」といった事項が、比較的多く挙げられているが、「課題の特定と対策」については回答が低くとどまっている。
- ④ BCPを策定していない企業では、その理由として「事業活動の中断(混乱)が重大なレベルまで達したことがほとんどない」が最も多く挙げられており、半数以上にのぼっている。これに次ぐ回答として、三分の一以上の企業が「専門知識の不足」を挙げている。
- ⑤ BCPに関する訓練の実施頻度については、「年1回以上実施している」という企業が最も多く(半数超)、かつ、ここ数年で増加傾向にある。
実施している訓練の内容としては、「避難訓練」、「安否確認訓練」といった防災に関連するものが多く挙がっている。
一方で社員教育については、定期的に実施している企業の割合は1割強と、低い水準にとどまっている。 - ⑥ 大災害発生時にサプライヤーから部品やサービスの提供を確保するために、何らかの事前対策を講じているという企業は全体の三分の二にのぼり、BCP自体の策定率よりも高い割合になっている。特に、製造業では9割近くにまでのぼっている。
また、顧客から防災対策・BCP整備に関して何らかの要請を受けているという企業は5割強で、ここ数年増加傾向にある。これも、製造業に絞ると8割弱にまで高まっている。 - ⑦ 海外拠点に関するBCPの取り組みとしては、企業の6割弱が海外拠点では「全くBCPを策定していない」と回答しているが、何らかのBCPを策定しているという企業も着実に増加している。
記載内容に挙げられている事項としては、「体制の構築(指揮命令系統)」という回答が7割弱と、大きな割合を占めている。
なお、これら実態調査の詳細報告書は、過去に実施したものも含め全て無償公開している。詳細はそちらをご確認いただきたい。https://www.irric.co.jp/reason/research/bcm/index.php
以上