レポート

2023年度 No.2「人的資本の取組は企業価値向上につながるか?」

2023.11.1

要旨

  • 昨今、「人的資本」に対する社会の関心が飛躍的に増加しているが、本邦で提唱されている「人的資本経営・開示」の取組が企業価値向上につながることを示した研究はまだ少ない。
  • そこで、弊社も主催者として関わった「人的資本調査2022」のデータを用いて、企業の「人的資本の取組」と「企業業績」の関係を統計的に分析した。
  • その結果、人的資本取組の水準が高い企業群は業績数字が他の群より優れており、一部の人的資本取組の定量スコアは業績数字と統計的に有意な相関がみられた。
  • 本稿では分析結果から得られた示唆や今後の分析課題についても紹介する。

1. 人的資本への注目と企業業績との関係性

従業員の能力・才能・技能資格・労働意欲などの人的資本は、建物や設備などの有形資産と同様に、企業に利益をもたらす重要な無形資産である。岸田政権が掲げる「新しい資本主義」では「人への投資」の重要性を強調しており、人的資本を含む無形資産投資を充実させることに加え、投資家等のステークホルダーへ情報開示し対話を行うことが必要であるとされている。

2. 人的資本調査2022について

まず、分析対象とした「人的資本調査2022」の概要について簡潔に説明する。なお、調査の詳細についてはこちらのURL[7]からご参照いただくことが可能である。

  • 調査対象企業:上場企業を中心に人的資本に関する調査票を配布し280社から回答を得た(上場232社、非上場48社)。今回の分析対象とした項目に欠損がなかった184社を分析に使用した。
  • 調査実施時期:2022年9月~12月
  • 調査項目:MS&ADインターリスク総研(株)が(一社)HRテクノロジーコンソーシアム、HR総研(ProFuture(株))と共同で実施した「人的資本調査2022」の設問を使用した。同調査は「人材版伊藤レポート2.0」や「人的資本可視化指針」で推奨されている人的資本の取組内容を参考に作成しており、大項目として「人的資本経営への変革」、「HRテクノロジーの整備」、「データドリブン人的資本経営の実践」、「戦略的開示とステークホルダーとの対話」の4つに大別されている(図1)。また、大項目の下には中項目、小項目を配し、企業の人的資本についての取組水準を各項目レベルにおいて4段階でスコア化出来るように設計している(表1)。

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