コンサルタントコラム

防災・減災シリーズ(雷害リスク)増加傾向にある背景と事例

[このコラムを書いたコンサルタント]

関口 祐輔
専門領域
安全文化醸成、安全管理全般、災害リスク関連の体制強化・支援に強み
役職名
リスクマネジメント本部 リスクマネジメント第一部長 主席コンサルタント
執筆者名
関口 祐輔 Yusuke Sekiguchi

2024.3.28

気候の変化による雷害リスク増加の背景

気象庁から公表されているデータによると、日本の平均気温は、1898年(明治31年)以降、100年当たりにおよそ1.1℃の割合で上昇しており、気温の上昇に伴って熱帯夜(夜間の最低気温が25℃以上の夜)や猛暑日(1日の最高気温が35℃以上の日)が増える傾向がみられています。地球の温暖化に伴って、日本近海での大型の台風の発生は増えると予測されていて、台風に伴う強雨も増える傾向があると予測されています。

雷の発生メカニズムは種々あり、上空の大気が不安定になると発生しやすい環境になるとされています。低気圧が発生して前線が発達すると、前線に沿って大気が乱れた状態となりやすく、時として広域にわたって雨雲や雷雲が形成される場合があります。また、気温の上昇によって平野部の気温が高くなる機会が増えると、温まった空気が上昇してできる積乱雲が発生しやすくなります。発達した積乱雲は、強雨や雷を伴うことがあることから、平均気温の上昇が雷を増やす1つの要因となっていることが推定されています。

気候の変動要因としては、海水温の変化や偏西風の蛇行の変化など様々な要因が挙げられ、一概に気温の上昇ばかりが集中豪雨や雷の発生などの異常気象を引き起こす要因とはいえません。

しかし、地球温暖化は雷雲の発生の増加に少なからず影響を与えていることが指摘されてきています。気候の変化にと共にこれらの被害の背景要因には、機械・設備の変化もあります。

落雷による激しい電磁界の変動が起きると、建物周辺の配線経路に雷サージ(短時間に発生する異常な過電圧および過電流)が発生し、これが建物に入り込んで設備を損傷する場合があります。雷による設備被害の発生件数は、これらの電気電子機器の普及とともに増加してきています。施設や事業所の中で使用されている構内電話、放送設備、防災設備、セキュリティー対策設備などは有効性を高めるために施設内にくまなく配備されることが一般化しています。

また、生産設備のインテリジェント化が進み、制御系にはマイクロコンピューターやシステムLSIなどが多用されてきています。今後、情報通信技術(ICT)の発展に伴って、ICT関連機器が社会に深く関わり合い、重要な役割を担うようになることが社会の趨勢となっています。これらに使用される電気電子機器は高機能化が進んでおり、高密度な配線パターンを有する回路基板や半導体などの電子部品が多数使用されています。これらの機器は、高機能化や低消費電力化の追求から、より低い電圧で安定して動作することが求められており、その結果、サージなどの電圧の変動に対して耐性が低くなっていることが挙げられています。

雷による電気機器の損傷というと、回路基板が激しく焦げて故障した状態が思い起こされています。実際に被害に遭った防災設備などを調査すると、回路基板の一部がわずかに焼損したケースや搭載部品の一部が焼損しているケースなど、雷による被害であるかどうかの判別が困難なほど物理的な損傷の程度が軽いケースも発生しています。耐電圧が低い電気電子機器の普及は、ピーク電圧の低いサージによって損傷に至る機器が増加することとなり、雷による被害が広範囲に広がる要因となっています。

雷の種類と特徴

雷は、発生メカニズムによっていくつかの種類に分けることができます。雷の基本的な発生メカニズムは、気温の低い上空に上昇した雲の中で、氷晶がぶつかり合って帯電し、蓄積された電気エネルギーが大気中に放電される現象です。空気は良絶縁体とされていますが、大きな電気エネルギーによって高い電圧が発生すると絶縁破壊を起こして導電状態となります。雷雲に蓄積された電気エネルギーが、地上の物体に対して放電(対地放電)する現象が落雷です。

雷の分類にはいくつかの方法がありますが、気象条件の違いにより分類される次の3種類が代表的なものです。

  1. 熱雷
    日中の太陽光によって暖められた空気が上昇気流となり、これによって発生した積乱雲の中で氷晶がぶつかり合って帯電し、蓄積された電気エネルギーが雷の発生源となります。多くの場合、雲の上層部には正に帯電した電荷が蓄積され、地表側には負に帯電した電荷が蓄積されます。したがって、対地放電が起きて落雷となった場合、負の極性の雷となることが多いです。夏の気温が高く、日差しの強い日に発生しやすく、夏季雷とも呼ばれています。地上の表面の空気が暖められ、上空に冷たい空気がある状態、すなわち大気が不安定な状態となったとき時に多く発生します。
  2. 界雷
    低気圧の周囲に発達した前線付近の上昇気流によって雲が発生し、その雲の中で帯電によるエネルギーの蓄積が起こり、雷が発生する現象です。寒冷前線後方の寒気が移動することによって、居座っていた暖気が上に押し上げられて雲が発生する場合が多いですが、温暖前線面で、暖気が寒気の上に乗りあがって雲が発生する場合もあります。勢力の強い低気圧の移動などによって前線が発達するとこのような気象条件になりやすくなります。前線による影響は、広範囲に及ぶことが多く、比較的広域にわたって雷が発生することや前線の移動に伴って雷雲も移動することが特徴といえます。
  3. 冬季雷
    冬季、日本海にシベリアから寒冷な北西の季節風が吹き、暖流である対馬海流上で下層が暖かく湿った空気となり対流雲となって発達し、対流雲の中の氷晶がぶつかり合って帯電が起こります。上空に正の電荷を帯びた雲が発生しますが、北西風によって上空の帯電した雲が陸地に押し出され雷雲となります。このようにして発生する雷は冬季雷と呼ばれており、負の極性の雷が発生することがありますが、正の極性の雷が発生する割合が熱雷(夏季雷)などと比較すると高くなります。また、熱雷などと比較して、1回当たりに放電される雷のエネルギーが大きいことが特徴です。冬季雷は日本海側に多く発生し、秋田県から福井県にかけて特に多くなります。

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