コンサルタントコラム

防災・減災シリーズ(’雷害リスク):雷害対策を考える

[このコラムを書いたコンサルタント]

関口 祐輔
専門領域
安全文化醸成、安全管理全般、災害リスク関連の体制強化・支援に強み
役職名
リスクマネジメント本部 リスクマネジメント第一部長 主席コンサルタント
執筆者名
関口 祐輔 Yusuke Sekiguchi

2024.3.28

雷による被害から総合的に施設を保護するために

建物の雷による被害の軽減方法として、避雷針を設置する方法がよく知られています。建設基準法の規定により、避雷針などの避雷設備による雷対策が規定されています。国内にある建物はこの基準に従って避雷設備が設置されています。

【建築基準法の外部避雷対策に関する規定の概要】
雷は「高いものに落ちやすい」「先の細いものに落ちやすい」という性質をもち合わせている。これらの性質を利用したのが「避雷針」である。高さ20m以上 の建物に設置することが法律で義務付けられている。

  • 建築基準法施行令(129条の14)

    法第33条の規定による避雷設備は、建築物の高さ20mをこえる部分を雷撃から保護するように設けなければならない。

  • 避雷針 建築基準法(33条)

    高さ20mをこえる建築物には、有効に避雷設備を設けなければならない。ただし、周囲の状況によって安全上支障がない場合においては、この限りではない。

しかしながら、この避雷針などの避雷設備による対策は、直撃雷による建物・設備・人身への雷撃リスクをある程度低減することはできるものの、直撃雷を受けた建物内部にある電気設備の被害を防ぐことができない場合があります。JIS(日本工業規格)では、雷による被害を防ぐための規格を「建物の雷保護システム」として外部雷保護システムと内部雷保護システムに系統化し規格化しています。

また、電気設備などの被害を防ぐための規格を「電気設備の雷保護システム」として規格化しています。直撃雷から建物を保護することを主な目的とする外部雷保護と雷サージから建物内部の電気設備を保護する内部雷保護に大別し、雷による被害から総合的に施設を保護するためには、外部雷保護と内部雷保護の併用による保護を行うことが望まれます。

外部雷保護とは

外部雷保護システムは、直撃雷による建物や設備の被害を防ぐためのシステムであり、建物に設置された避雷設備がこれに該当します。一般的な避雷設備は、避雷針や水平導体からなる受電部、引き下げ導線および接地極で構成されています。雷が建物を直撃する前に受電部で捕捉し、雷から受けた電気エネルギーを引き下げ導線と接地極を介して地中に放散することによって建物を保護する方法です。

一方、避雷設備は設置の状態や建物の構造によっては、強い電磁界の発生源となって別の被害を誘発することも考えられます。落雷を受けた時、瞬間であるが引き下げ導線などに高電圧で大電流が発生するため、周辺に激しい電磁界の変化による影響を与えます。場合によってはこれらの現象によって、建物内の金属製のケーブルにサージが発生することも考えられます。

このような現象を防止するために、建物に複数の引き下げ導線を設置し、これらを相互に接続するように水平環状導体を設置することで等電位化が図られます。あるいは、建物の鉄骨・鉄筋などの構造体そのものを接続し、均一に電流が流れる構造にすることが効果として期待でき、特に高層建築の建物などでこのような方法が採用されています。

避雷設備を設置した場合の保護範囲の考え方について、従来は保護角による方法が用いられていましたが、JIS規格によって、回転球体法による方法が適用されるようになっています。保護すべき建物などの保護レベルを検討し、規定された電撃距離を半径とした球体が接しない部分を保護範囲とするもので、高層の建物の場合には、建物の側面への落雷となる側撃雷に対する保護の考慮も必要となってきます。回転球体法による方法は、従来の保護角による方法と比較して建物の高さや建物からの距離が大きくなった場合に保護できない部分が明確となるため、この方法を適用することによって保護のレベルが向上されることとなります。

内部雷保護とは

施設またはその周辺に雷が発生すると、落雷現象以外に電源線、通信線に誘導起電力が発生し、地面には離れた地点間に電位差が生じます。これらの現象によって、発生した雷サージが建物の内部に侵入する経路をまとめると以下に示す4つの経路となります。

【雷サージの侵入経路】

  1. 避雷針に落ちた雷により、雷電流が建物内の半導体、良導体を通って侵入する。
  2. 高圧配電線近傍への落雷等により発生した雷サージが電源線から侵入する。
  3. 建物周囲への落雷により、電話回線や制御線、信号線に雷サージが誘導され侵入する。あるいは大地から各種センサーの絶縁を破壊し、制御線、信号線等より雷サージが侵入する。
  4. 大地は必ずしもゼロ電位ではない。土壌には固有抵抗があり、半導体のような性質をもっている。そのため、建物周囲に落ちた雷により大地に大きな電流が流れた場合、大地の電位が大きくなり、接地線より雷サージが侵入する。


雷サージが建物の内部に入り込んで設備に被害を与えることを防ぐには、侵入する経路に保護するためのシステムを構築することが必要となります。建物内に雷サージに対して耐性が弱い設備がある場合や、敷地内で電気配線や通信線が引き回されている場合には被害を受けるリスクが大きいといえます。

情報通信技術(ICT)、生産技術、防災関連技術の高度化が押し進められている情勢の中で、施設内にある情報関連機器、制御機器、防災機器の役割は大きく、雷害が発生した場合の損失も大きなものとなります。このような状況の中で、内部雷保護は重要なリスクマネジメントの一つと考えられています。

会員登録でリスクマネジメントがさらに加速

会員だけが見られるリスクの最新情報や専門家のナレッジが盛りだくさん。
もう一つ上のリスクマネジメントを目指す方の強い味方になります。

  • 関心に合った最新情報がメールで届く!

  • 専門家によるレポートをダウンロードし放題!

  • お気に入りに登録していつでも見返せる。