防災・減災シリーズ(地震リスク):長周期地震動と耐震基準
[このコラムを書いたコンサルタント]
- 専門領域
- 安全文化醸成、安全管理全般、災害リスク関連の体制強化・支援に強み
- 役職名
- リスクマネジメント本部 リスクマネジメント第一部長 主席コンサルタント
- 執筆者名
- 関口 祐輔 Yusuke Sekiguchi
2024.3.21
長周期地震動とは
地震動を観測した地震波を見ると様々な周期の波が含まれていますが、大規模地震になるほど長周期の地震波の発生が目立つ傾向があります。そのため、大規模な地震になりやすいプレート境界の地震で注目されやすくなっています。また、地震波は周期が長い(揺れがゆったりしている)ほど減衰しにくく、震源から遠い場所まで強いエネルギーをもった状態で伝わりやすい性質があります。このような長周期地震動に共振しやすい構造物に被害が発生しています。
2003年の十勝沖地震の長周期地震動では、北海道苫小牧市の石油コンビナートでスロッシング(石油タンク内の石油の共振)によりあふれた石油に引火して火災が発生し注目されました。2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、震源から離れた地域で多数の高層建築物に被害が確認されました。震源から800km近く離れている高さ256m(55階建て)の大阪府咲洲庁舎では、地表の震度は3であったにもかかわらず、エレベータ停止による閉じ込め事故や、天井や床の破損、防火扉の破損といった被害が発生し注目されました。
建物は高層になるほど、建物自体の固有周期が長くなるため、超高層建物では長周期地震動と共振する可能性がありますが、現行の建築基準法の規定を満たしただけでは、長周期地震動への十分な対策が織り込まれた設計とはなりません。長周期地震動により超高層建物で共振が発生した場合、倒壊しないまでも、収容されている什器・備品・家具が飛んだり、外壁やガラスが破損、落下するなど大きな被害を招くおそれがあります。こうした事態を防ぐためにも、建物の長周期地震動の影響評価の推進が重要となります。
長周期地震動に関する研究は公的機関を中心に盛んに行われております。平成21年9月には文部科学省に設置された政府の機関である地震調査研究推進本部が「長周期地震動予測地図 2009年試作版」を公表し、想定東海地震、東南海地震、宮城県沖地震を対象とした長周期地震動による最大速度や継続時間の分布が示されました。その後、平成24年1月には「長周期地震動予測地図 2012年試作版」が公表され、南海地震(昭和型)に関する分布が示されました。
また、平成25年には気象庁により「長周期地震動階級」が設定され、同年11月からは「長周期地震動に関する観測情報(試行)」として運用が開始されています。当該情報は気象庁のホームページより確認することができます。
旧耐震基準と新耐震基準の違い
建築基準法に基づく現行の耐震基準は1981年6月1日に導入されました。これ以前の基準は「旧耐震基準」、以降は「新耐震基準」と呼ばれています。旧耐震基準では中規模地震に対し構造安全性を検討する「一次設計」を行っていました。
新耐震基準では建物内の人命保護に主眼がおかれ、まれに起きる震度6強~7程度の大規模地震においても建物が崩壊・倒壊しない構造安全性を検討する「二次設計」が必要となりました。この新耐震基準で建てられた建物は、1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)や2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)、2016年の熊本地震といった過去の多くの被害地震において旧耐震基準の建物と比較し被害が少なかったことがわかっています。
建物は建築基準法に基づいて耐震設計されます。建築基準は地震による被害の経験を踏まえて改正されており、近年では1981年に大幅な改正が行われています。過去の様々な地震において、1981年以降に建築された建物はそれ以前に建築されたものより被害が小さいという結果が出ていることから1981年に改正された基準は妥当であると判断されています。
現行の耐震基準の考え方は、中規模の地震(震度5強程度)に対しては、ほとんど損傷を生じず、極めて稀にしか発生しない大規模の地震(震度6強から震度7程度)に対しては、人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないことを目標としたものです。このため、現行の耐震が基準を満たす建物は、大規模の地震においても大破または倒壊する危険性は低いものの、修復が必要となることが想定されています。また、建物の増改築や経年劣化、設備の配置等によって、建物が損傷しやすくなることも考えられます。
なお、財物損害が発生しやすい施設としては、以下のようなものが挙げられます。
- 地盤が悪い場所(埋立地、河川の近く等)に立地する建物設備
- 1981年以前に建築された建物
- 不規則な形状の建物
- 1階部分がピロティとなっている建物
- 複合構造(例えば、5階までが鉄骨鉄筋コンクリート造、6階以上が鉄骨造)の建物