ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)を理解する
[このコラムを書いたコンサルタント]
- 専門領域
- 安全文化醸成、安全管理全般、災害リスク関連の体制強化・支援に強み
- 役職名
- リスクマネジメント本部 リスクマネジメント第一部長 主席コンサルタント
- 執筆者名
- 関口 祐輔 Yusuke Sekiguchi
2024.3.21
国際規格ISO45001(労働安全マネジメントシステム)とは
「労働安全衛生」分野では初の国際規格ISO45001(労働安全マネジメントシステム)が2018年3月12日に発行されました。ISO45001は全10章で構成され、PDCAサイクルの計画(Plan)は6章、実行(Do)は7章と8章、評価(Check)は9章、改善(Act)は10章にそれぞれ記載されています。
労働安全衛生マネジメントシステムは、BSIが中心になって作成したOHSAS18001をはじめとして、これまでに複数の規格が発行され、全世界で多くの組織が認証を受けています。全ての労働安全マネジメントシステムはPDCAサイクルに基づいていますが、要求事項や用語の定義は各規格で統一されていませんでした。
そのような状況の中で、国際標準化機構(ISO)では、規格間の整合性向上を図り、運用を容易にするため労働安全衛生マネジメントシステムのISO化を検討し20年以上にわたって議論してきましたが、ついに2018年の発行に至っています。
ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)の構成について
「ISO45001」は全10章で構成され、規格要求事項は「4章から10章」に記載されています。「規格の章立て」「要求事項」「用語の定義」は共通テキストが適用されるため、例えば他のISO規格であるISO9001やISO14001と統合して運用することが可能になっています。
「ISO45001」は、組織の各階層の働く人が積極的に労働安全衛生に関わり、計画(Plan)⇒実行(Do)⇒評価(Check)⇒改善(Act)のサイクルによる継続的な安全衛生管理を自主的に進めることにより、労働災害の防止と安全で健康的な職場環境を提供することを目的としたマネジメントシステムです。
PDCAサイクルは規格要求事項上で明確になっており、Planが6章、Doが7章と8章、Checkが9章、Actが10章に記載されています。このPDCAサイクルに対応する章構成は他のISO規格と同様であり、リスクアセスメントは6章に記載されています。なお、付属書には、要求事項の誤った解釈を防ぐための「規格の利用の手引」が記載されています。
【ISO45001の構成】
※ISO認証を取得するためには、4章から10章の要求事項に適合していることが求められています。
- 適用範囲
- 引用規格
- 用語と定義
- 組織の状況
- 組織及びその状況の理解
- 働く人及びその他の利害関係者のニーズ及び期待の理解
- 労働安全衛生マネジメントシステムの適用範囲の決定
- 労働安全衛生マネジメントシステム
- リーダーシップ及び働く人の参加
- リーダーシップ及びコミットメント
- 労働安全衛生方針
- 組織の役割、責任及び権限
- 働く人の参加及び協議
- 計画
- リスク及び機会への取組み
- 労働安全衛生目標及びそれを達成するための計画策定
- 支援
- 資源
- 力量
- 認識
- コミュニケーション
- 文書化した情報
- 運用
- 運用の計画及び管理
- 緊急事態への準備及び対応
- パフォーマンス評価
- モニタリング、測定、分析及びパフォーマンス評価
- 内部監査
- マネジメントレビュー
- 改善
- 一般
- インシデント、不適合及び是正処置
- 継続的改善
ISO45001導入に向けて
ISO45001の要求事項すべてに対応するのは難しいと思われるかもしれませんが、紹介した取組み例や従来から実施している労働安全衛生の取組みをマネジメントシステムに組み込んで、組織の実情に合わせて実行することにより、労働安全衛生の水準が向上します。ISO45001は労働安全衛生分野で初めてとなるISO規格であり、企業の社会的責任、及び企業の労働安全衛生の取組み姿勢が問われる時代背景から、今後ますます認証を取得する組織が増えることが予想されます。既に国際規格化されている環境や品質については、広く認証取得が進んでいるためマネジメントシステムの基本的な考え方は定着しています。
一方、「労働安全衛生」分野に関しては国際規格化が遅れたため、どのように取組めばよいのか分からず、十分に活用できるか不安に感じている組織も少なくありません。
ISO45001は組織における労働安全衛生の向上に寄与するものであり、今後は「労働安全衛生」の分野においても、この国際規格の活用が望まれます。また、認証を取得しなくても、労働安全衛生の推進を図るための手段として、リスクアセスメント手法、PDCAサイクルの活用、文化醸成の実質的な標準として活用することで、「労働安全衛生」の歩みに大きく貢献できると考えています。現在行っているそれぞれの安全活動の取組みを労働安全衛生マネジメントシステムの一環として捉え、経営トップから現場までが一丸となって取組むことが、組織全体の労働安全衛生水準のレベルアップにつながります。