コンサルタントコラム

労働安全衛生改正~国内の現状と化学物質のリスクアセスメント~

[このコラムを書いたコンサルタント]

関口 祐輔
専門領域
安全文化醸成、安全管理全般、災害リスク関連の体制強化・支援に強み
役職名
リスクマネジメント本部 リスクマネジメント第一部長 主席コンサルタント
執筆者名
関口 祐輔 Yusuke Sekiguchi

2024.3.28

近年の日本における労働災害発生状況

1960年代のわが国では、労働災害により毎年約6,000人もの方が亡くなっており、ピーク時の1961年には6,712人でした。そのような状況を打開すべく、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的として「労働安全衛生法」が1972年に制定されました。

労働安全衛生法は、大きな事故や災害をきっかけに幾度も改正されて現在に至り、労働災害の減少に大きく貢献してきています。近年の日本における労働災害発生状況の推移をみると、死亡者数は右肩下がりで減少しているものの、2022年でもいまだに744人の方が亡くなっています。また、休業4日以上の死傷者数では2009年以降は、増加傾向にあり、2022年の死傷者数は132,355人、平均して1日に約510人の方が被災していることとなります。

現在に至るまで多くの企業が労働災害防止対策として、事故の再発防止策やヒヤリハット報告、KY活動等を実施し労働災害の減少に努めてきました。しかし、さらなる安全な職場づくりのためには、労働災害の「危険の芽」を事前かつ合理的に摘み取るための安全活動が必要です。このような安全活動としてリスクアセスメントがあり、より一層安全な職場を作るためにはリスクアセスメントの実施が労働災害防止の鍵となります。

日本における職場のリスクアセスメント

まず、海外で労働災害における死亡者数が少ないイギリスと日本を比較してみます。2018年の労働者人口を調べるとイギリスは3,370万人、日本は6,830万人であり、日本はイギリスに対して約2倍の労働者人口であるにもかかわらず労働災害による死亡者数は6倍以上でした。このような差異が生じる理由として、イギリスの労働安全衛生に対する取り組みに何らかの良好な要因があると考えられます。

イギリスにおける労働安全の良好な取り組みの一つとして、日本よりも早期にリスクアセスメントが義務化され、事業主に安全衛生管理の責任を負わせたということが挙げられます。実際にイギリスでは、1992年に「Management of Health and Safety at Work Regulation 1992」という規則を制定し、リスクアセスメントが義務化され、5人以上の規模の事業所はこのリスクアセスメントの結果を記録しなければならないと規定しました。
この規則を受け、イギリスの事業主は法令違反とならないように自主的に安全衛生管理に取り組んできたという背景があり、労働災害の死亡者数を減らすことができたと推測されます。

一方、日本では、2006年に職場のリスクアセスメントが努力義務化されましたが、現在に至っても実施しなくても罰則のない努力義務の状態です。最近では、化学物質のリスクアセスメントが2016年に義務化されていますが、実施している事業所の割合はいまだに高いものとは言えません。今後の日本が労働災害を減らしていくためには、リスクアセスメントの実施状況を改善し、事業主が責任を持って主体的に安全衛生管理を行っていくことが求められます。

日本において、職場のリスクアセスメントが努力義務化する以前(2005年)にリスクアセスメントを実施している事業所の割合は20%とかなり低いものでした。その後リスクアセスメントを実施している事業所の割合は増加していき、2017年にかけて50%前後で推移するまでに到達しましたが、依然として半分の事業所ではできていないというのが現実です。

機械の老朽化による更新や従業員の交代等によってリスクは時間の経過とともに変化するため、定期的なリスクアセスメントが労働災害の防止に有効です。なお、定期的なリスクアセスメントはマンネリ化しやすいため、事業所外のメンバーによる巡回や過去に報告されたヒヤリハットを活用するなどの工夫も必要です。

日本における化学物質のリスクアセスメント

化学物質のリスクアセスメントは2016年6月1日に労働安全衛生法の改正で義務化され、その対象は一定の危険有害性のある化学物質のうち、労働安全衛生法第57条の2に該当する安全データシート(SDS)の交付義務の対象である640物質(2021年1月1日時点で674物質)となりました。

この法改正は、2012年に発生した印刷工場でのジクロロプロパンへのばく露による胆管がんの集団発症をきっかけに、化学物質の管理方法が見直されたことが根底にあります。同様の労働災害を発生させないために、化学物質のリスクアセスメントは義務化されましたが、義務化以降でも化学物質のリスクアセスメントが未実施であったことによる労働災害は発生し続けています。

2018年においてリスクアセスメントが義務化されている674物質に対してのリスクアセスメント実施状況は、「すべて実施している」という事業所は29%とかなり少なかった結果です。また、「該当する化学物質を使用しているかわからない」という事業所は25%を占めており、気づかないうちに有害物質にばく露して健康障害をひきおこすような危険な職場となっている可能性があります。

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