コラム/トピックス

取締役のコンプライアンス意識向上~不正行為の抑制に効果

2024.3.23

企業の取締役のコンプライアンス意識の醸成には、積極的な機会創出が欠かせない

公益社団法人日本監査役協会は2023年8月8日、取締役のコンプライアンス意識調査の結果を公表しました。本調査は、企業不祥事の未然防止のためには、取締役における法令遵守の精神が重要であるとの考えのもと、「取締役のコンプライアンス意識」をテーマに設定し行われ、2,655社から回答がありました 注1)。
本調査結果によると、「貴社の取締役のコンプライアンス意識について最も近いものはどれですか?」という設問に対し、「どちらかというと、業務の執行が優先されている」と回答した割合が8%、「コンプライアンス意識が希薄、または、話題となる事が少ない」と回答した割合が2%でした。

取締役のコンプライアンス意識についてのアンケート結果

出典:公益社団法人日本監査役協会「第3回適時調査 取締役のコンプライアンス意識」記載内容を基に弊社にて作成

同設問を過去に不正行為があった企業とそうでない企業別にアンケート結果を集計したところ、「どちらかというと職務の執行が優先されている」と答えた割合が、前者で20%、後者で8%と、違いがでています。

取締役のコンプライアンス意識についてのアンケート結果(不正行為の有無別)

出典:公益社団法人日本監査役協会「第3回適時調査 取締役のコンプライアンス意識」記載内容を基に弊社にて作成

さらに、「取締役のコンプライアンス意識の把握や向上に関して実施している施策について近いものをお選びください」という設問において、過去に不正行為がない企業が、過去に不正行為があった企業を大きく上回った回答が「取締役会等でのコンプライアンスに関する定期的意見交換」でした。不正行為のあった企業で48%であるのに対し、不正行為のない企業で60%と差がでていました。

コンプライアンス意識向上施策についてのアンケート結果(不正行為の有無別)

出典:公益社団法人日本監査役協会「第3回適時調査 取締役のコンプライアンス意識」記載内容を基に弊社にて作成

この結果から、取締役におけるコンプライアンス意識向上の機会が定期的に設定されていることは、不正行為の発生を抑制する上で、一定の効果があるものと推察できます。企業においては取締役会、経営会議といった会議体においてはもちろんのこと、監査役との対話の機会や研修など、取締役コンプライアンス意識の醸成を図る機会を積極的に創出していくことが肝要といえます。

注)
1)日本監査役協会はこれまでに適時調査として、「アフター・コロナを見据えた今後の往査」、「事業リスクとBCPの策定状況」をテーマに、2回調査を実施しています。今回は3回目の調査で、同協会にE-mailアドレスが登録されている企業7,391社のうち2,655社から回答がありました。

参考情報:2023年8月8日付 公益社団法人日本監査役協会HP
https://www.kansa.or.jp/wp-content/uploads/2023/08/el20230807tekiji.pdf

※本記事は、2023年10月2日発行のMS&AD InterRisk Report・ESGトピックス「日本監査役協会が取締役のコンプライアンス意識調査の結果を公表」を再編集したものです。

コンプライアンスとは

「コンプライアンス」とは、「(要求・命令などに対する)応諾・追従」を意味する“Compliance”という英単語からきている言葉です。実際の使われ方は状況によって様々であり、コンプライアンス=「法令遵守」と捉える向きもありますが、企業経営においては、「企業が株主の利益の最大化を追求し、あるいは顧客などに製品やサービスを提供する過程で行う様々な事業活動が、社会一般に求められる『ルール』に準拠していること」という意味合いで用いられています。

企業経営におけるコンプライアンス取組みの意義・必要性

戦後のわが国社会経済は、高度経済成長の波に乗り飛躍的な発展を遂げました。これを支えたのが、官主導による事前規制型の社会経済システムと会社経営における利益至上主義の思想です。すなわち、監督官庁は業界に対し、幅広い許認可権を背景に、法規制・通達・指導などの形で様々な規制を課し、企業経営に大きな影響を及ぼしていました。そこには、企業による自己責任や自己規律という概念は乏しく、もっぱら官の指導が企業にとっての規範の中心とされてきました。
そして最低限当局から示された規制を遵守さえすれば、後は会社利益のために周りを犠牲にすることもやむを得ないとの考えが、長年にわたり定着してきました。

しかしながら、1990年代になって、わが国社会の成熟化と社会経済のグローバル化が顕著となり、わが国は低成長の時代を迎えるとともに深刻な不況に陥りました。ここにおいて行政はわが国の競争力回復のため、これまでの方針を転換して自由化と規制緩和をベースとする事後監視型の政策へと方向転換を図り、企業は自己責任原則の徹底と透明性の確保を強く求められるようになっています。

このように、社会環境・経営環境が大きな変貌を遂げる一方、有名企業における不祥事などの発覚が1990年代以降、後を絶ちません。さらにこうした事件を引き起こした企業の中には、株主代表訴訟により役員個人の責任を厳しく追及されているケースも現に存在します。これらの事件・事故に共通していえるのは、問題を起こした企業が、前述したような企業経営における旧来型の価値観から脱却できないまま、自社の利益を最優先させるとのスタンスに立った対応をとった結果によるものであるともいえます。

よって、企業責任の厳格化がますます強まる状況において、企業が事業活動を行ううえで、法令のみならず社会通念として確立されたルールやモラルを遵守することは、今や企業経営における必要不可欠な要素であり、これに背いた企業は市場からの信任を失い、マーケットからの退出を余儀なくされることを認識すべきです。企業におけるコンプライアンス取組みの必要性はまさにこの点に帰着するのであり、自らが自己の責任において、主体的・自律的に行動規範を確立することが求められているといえます。

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