コンサルタントコラム

人的資本に取組むと企業業績は高まるか? ―データに基づく実証分析―

[このコラムを書いたコンサルタント]

對間 裕之
専門領域
健康経営、メンタルヘルス、労災対策関連の体制構築及び推進支援に強み
役職名
リスクマネジメント第四部 人的資本・健康経営グループ グループ長 主席コンサルタント
執筆者名
對間 裕之 Hiroyuki Taima

2024.3.25

人的資本の取組みは企業価値や企業業績の向上につながるか

近年、「人的資本」への投資が企業価値向上に寄与するとの視点が注目されています。人的資本とは、従業員の知識やスキル、経験などを指し、これが企業の競争力を支える重要な無形資産とされています。また、経済産業省の「人材版伊藤レポート」や内閣官房の「人的資本可視化指針」等においては、人的資本への投資が企業価値向上につながると主張されています。

しかし、これまでの研究では、前掲のレポートや指針で示された具体的な取組みと企業価値や企業業績との関連性について明らかにされているわけではありません。当社では、これらの取組みと企業業績の関連性についてデータを利用して検証しましたので、ここにご紹介します。

人的資本取組と企業業績の関連性(「人的資本調査2022」のデータ分析より)

当社が共催した「人的資本調査2022」のデータを用いて、企業の「人的資本の取組」と「企業業績」の関係を統計的に分析しました。その結果、人的資本取組の水準が高い企業は、それ以下の水準の群に比べて、業績数字が優れており、一部の人的資本取組の定量スコアは業績数字と統計的に有意な相関が見られました。

  1. 分析の概要
    「人的資本調査2022」のデータのうち、184社分について人的資本の様々な取組と企業価値(企業業績)との関係性を分析しました。

    ※「人的資本調査2022」の概要は参考1をご参照ください。

  2. 分析結果の概要
    分析により得られた結果の一部を簡単にまとめると、以下のとおりです。

    なお、『』マークで示した項目は「人的資本調査2022」の大分類です。各分類や構成される項目については、参考2の表を参照ください。

    • 『人的資本経営への変革』に高い水準で取組む企業は、他に比べて1人あたり営業利益が高い
    • 『データドリブン人的資本経営の実践』に高い水準で取組む企業は、他に比べて1人あたり営業利益が高い
    • 『戦略的開示と対話』に高い水準で取組む企業は、他に比べて1人あたり営業利益が高い
    • 従業員規模や業種の相違により、1人あたり営業利益に有意な差はみられなかった
  3. 結果から得られた示唆
    この結果は、人的資本への投資が企業業績に寄与する可能性を示しています。
    特に注目すべき内容としては、高い業績までにつなげるためには、一定以上の高い水準で人的資本に取り組む必要があるかもしれません、という点です。
    今回、人的資本に関する様々な取り組みの水準の度合に応じて、企業を低群・中群・高群の3つに分けて分析しています。低群・中群では1人当たり営業利益はほぼ同等でしたが、高群はそれらに比べて約3倍高いとの結果でした。低~中群の水準で取り組むだけでは営業利益との関連性は見られず、特に高い水準で取り組んでいる企業のみで業績(今回の場合は1人当たり営業利益)との関連が見られました。
    つまり、人的資本の取り組みは、ある程度実践すればすぐに結果が出るものではなく、継続的な取り組みにより一定以上の高い水準に至らなければ、企業業績に寄与しない可能性があるということです。
  4. 分析に関する補足
    以上の内容では1人あたり営業利益の分析結果について紹介しました。なお今回、1人当たり売上高についても同様の分析を行ったところ、一部の取組項目や業種間の相違において有意な差が見られました。1人当たり売上高は原価額により大きな影響を受けるため、業種によって統計的に有意な差が生まれやすいものと考えられます。

おわりに(参考・関連情報)

今回の分析結果から、人的資本への投資が企業価値向上に寄与する可能性が示されました。ただし、これはあくまで相関関係の分析であり、因果関係を示すものではありません。今後は、人的資本調査の経年データなどを活用し、より詳細なデータ分析を行い、人的資本の取り組みと企業価値向上の関係性を探求していく予定です。

なお、本コラムでは分析の一部のみを紹介しています。詳細については、巻末の関連情報の各リンク先をご参照ください。

【参考1:「人的資本調査2022」について】

  • 主催:MS&ADインターリスク総研(株)、(一社)HRテクノロジーコンソーシアム、HR総研(ProFuture(株))
  • 期間:2022年9月~12月
  • 概要:企業・団体を対象に人的資本の取組状況をアンケート調査
  • 内容:経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」や内閣官房「人的資本可視化指針」で示されている人的資本の取組内容を参考に設問を作成。
  • 回答数:280社(上場232社、非上場48社)。なお今回の分析では、必要な項目に欠損がなかった184社のデータを使用。

【参考2:「人的資本調査2022」で測定した「人的資本取組」の項目】

【関連情報】

  • 2023/12/6 プレスリリース
    「人的資本調査2022の回答データから人的資本の取組と企業業績の関係性を分析 ~人的資本取組が進んでいる企業は営業利益が高いことが判明~」
    https://www.irric.co.jp/topics/press/2023/1206.php

  • 人的資本・健康経営インフォメーション<2023 No.2>
    「人的資本の取組は企業価値向上につながるか?~人的資本調査2022データの分析による検証の試み~」
    https://www.irric.co.jp/risk_info/health/2023_02.php

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