コンサルタントコラム

訪問介護・看護時のハラスメント対策のポイント~コンプライアンス~

2024.3.28

訪問介護・看護等におけるカスタマーハラスメントの発生状況

厚生労働省は団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの実現を目指しています。その中で、訪問介護や訪問看護のように利用者の自宅に職員が訪問するサービスは必要性が高まっています。

一方で、その担い手の1つである訪問介護員の約9割は女性であり、サービス特性として職員が単独で利用者宅を訪問してサービス提供を行うことや、利用者の身体に触れる場面が多いこと、利用者と事業者との関係性により訪問する職員の立場が弱くなりがちであることなどから、ハラスメントに遭うリスクが高いと考えられています。

平成31年に実施された調査では、1年間(平成30年1月~12月)に、利用者・家族等からのハラスメントの発生状況について、「ハラスメントの発生を把握している」施設・事業所の管理者は、訪問介護で46.6%、訪問看護で55.7%となっており、半数程度の事業者でハラスメントが発生していることがうかがえます。ただし、この数値は管理者が把握している割合であり、訪問介護等のように利用者宅で1対1での対応となり、管理者の目が行き届きにくい環境であれば、完全に把握することは難しいため、数値以上にハラスメントが発生している可能性も考えられます。

カスタマーハラスメント対策の必要性

カスタマーハラスメントの問題は訪問介護等に限った話ではなく、多くの職場が「件数が増加している」と回答しており、社会問題化しつつあります。このような実態もあり、令和元年6月5日に女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律等の一部を改正する法律が公布され、労働施策総合推進法等が改正されました。

これを踏まえ、令和2年1月に「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)が策定され、顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)に関し、事業者は相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備や被害者への配慮に取組むことが望ましいこと、被害を防止するためのマニュアル作成や研修の実施等が有効である旨が示され、社会的要請も高まっています。

常に人材不足が叫ばれる福祉の現場では、人材確保や定着のため、職員が安心して働くことのできる職場環境・労働環境の整備という観点からも各事業者がこうした取組みに着手していくことは重要なことといえるでしょう。

訪問介護等におけるカスタマーハラスメント対策のポイント

最初に求められる対策は、職員からの相談に応じて適切に対応するための体制を整備することです。職員がハラスメントを受けた際に相談しやすい仕組みとするため、相談することで不利益を被ることがないことを明確に示して、不安なく気軽に相談できる体制を整備することが重要です。具体的には、ハラスメントを見過ごさないといった方針や相談対応の体制・フローを明示することや、窓口を「男女でそれぞれ同性の窓口担当者を設ける」「弁護士など外部の専門家に委託する」などして、相談に対する心理的ハードルを下げるといった取組みが求められます。

特に訪問サービスでは、「1対1で支援を行う場合がある」「利用者の居宅内での支援など管理者等が状況を把握しにくい」などのことから、ハラスメントの発生を把握しにくいといえます。職員が管理者やサービス提供責任者等に日頃からハラスメントに関する報告や相談がしやすい環境を作ることが重要ですが、職員の日々の支援記録などに注意することや記録で気になる点について直接確認するなど積極的な対応も求められます。また、ハラスメントを回避したり、応援できる体制を予め検討しておくことなども必要です。

さらに、ハラスメントを発生させないために職員への教育や支援体制の工夫などに取組むことが重要です。具体的には次のような取組みが考えられます。

  1. 職員への教育
    ハラスメントは必要なスキルや知識を身につけることによって、未然に防げることがあることを職場全体で共有するや、自治体などが主催する支援者養成研修への派遣やメンター制度などによるOJTが方法として挙げられます。
  2. 同性介助
    同性介助は利用者の尊厳を守ることと同時に、ハラスメントの防止にも有効です。担当の決定にあたっては、利用者、職員それぞれ本人の自認に配慮し、よく話を聞きながら意向を踏まえた配置になるよう検討します。
  3. 定期的な職員の配置換え、チームによる支援(複数人での担当制)
    利用者と職員との相性などによって、支援に支障がでてしまうケースがあります。これを防止するため、定期的な職員の配置変更を検討したり、担当を複数人設定したりする等して、職員と利用者が接触する頻度や時間を柔軟に調整できるようにします。
  4. 利用者・家族等への周知
    契約書、重要事項説明などへ職員へのハラスメントによるサービス中断や変更の可能性があることを記載しておきます。提供できるサービス範囲の理解が不十分なことでハラスメントが発生することもあるため、契約に際して提供可能なサービスの範囲は別紙でも用意して説明するなど工夫します。

2025年には「団塊の世代」が一斉に75歳以上の後期高齢者となり、超高齢社会を迎えるにあたり、その一役を担う訪問介護等の職員が満足して働ける職場環境を整え、職員が安心して働き続けられる環境を築くことが介護事業者等に期待されます。

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