コンサルタントコラム

環境省が地域金融機関向けガイドでTCFD開示を促進

2024.4.3

脱炭素化の取り組みが加速、地域金融機関に期待される役割とは?

環境省は2023年3月31日、「ESG地域金融実践ガイド2.2」を公表しました。「2050年カーボンニュートラル」に向けて脱炭素化の取り組みが加速する中、地域社会においてそれを実現するために、地域金融機関に期待される役割は非常に大きくなっています。

しかしながら地域社会の主要な担い手である中小企業には、不確実性の高い長期を見据えて価値創造につなげるためにESG経営を推進するという発想が、まだ十分に浸透していません。中小企業の非財務価値に従来から着目していた地域金融機関が、ESG的な視点を再確認して地域社会に働きかけ、ESGエンゲージメントを高めることで、取引先のESGリスク軽減や新たな事業機会の創出、 金融機関自身の成長・競争力強化にもつながる可能性があります。

ガイドでは、前年度の活動から見出した現状の課題や気づきとして、以下などの点を挙げています。

  1. 金融機関の営業担当者、取引先における腹落ち感(納得感)の醸成
    • 短期的な成果を求められがちな金融機関の営業担当者やその取引先企業には、中長期的に効果が表れるESG金融に心理的ハードルが生じる傾向があり、取り組みの社会的意義やメリットの受益者としての側面に力点を置き、腹落ち感(納得感)を醸成することが重要
  2. 取り組みを通じた地域へのインパクトの創出
    • 地域における環境・社会インパクトの創出を企図し、ステークホルダーと共通の認識をもって取り組みを進めることの重要性を強調することが必要
  3. 金融機関内の持続的な取り組みに向けたPDCAの仕組み化
    • 部署間の役割を明確化した上で、本部と支店・営業店の密な情報連携によるPDCAサイクルの確立が必須
    • PDCA実施に際しては、本部は商品・サービスや外部動向に関する知見の提供、支店・営業店は顧客とのコミュニケーションにおける知見を活かし、両者の掛け合わせにより支援策を実装する考え方が有効

TCFD開示を通じて地域社会の脱炭素化を自らのリスク・機会に落とし込む

一方、同省は2023年4月7日に、「地域金融機関におけるTCFD開示の手引き」を公表しました。本手引きは地域金融機関に対して、TCFD開示を単にゴールとするのではなく、TCFD開示を通じて地域社会の脱炭素化を自らのリスク・機会に落とし込むとともに、地域事業者と手を組み、地域社会の脱炭素化に関して戦略的な対応を行うことを推奨しています。また本手引きは、関連の知見が不足しがちな地域金融機関に対して、TCFDを対応を通じて自らのリスク・機会を捉えた実効的な開示や地域社会の脱炭素移行 を促進する体制構築などを支援することを目的としています。

本手引きは、地域金融機関の事業特性、立地環境、担っている機能などに照らして、①地域の持続可能な成長の牽引、②自身の持続可能な経営、③金融システムの安定の3つの観点から、TCFD開示に取り組むことを推奨しています。

ESGガイドが求める地域社会への積極的な働きかけに際して、金融機関はTCFD開示のフレームワークを活用することで、自身の移行計画や戦略の土台を形成し、中小企業経営者のESG意識向上へのアプローチを検討することが可能となります。

大企業ではすでにESG経営は主流なものとなってきていますが、中小企業への普及はいまだ不十分なのが現状です。しかし、いずれ政府の脱炭素政策や大企業のサプライチェーン管理および移行戦略の強化に伴い、中小企業の事業継続や地域社会の様態に重大な影響が生じることが想定されます。地域金融機関においては、事業活動を通じてこのような危機感を地域社会へ伝達すると同時に、レジリエンスに富んだ地域社会の構築へ貢献していくことが重要となります。

【参考情報】

※本記事は、2023年5月1日発行のMS&AD InterRisk Report・ESGトピックス「環境省が地域金融機関向けガイドを相次ぎ公表、ESGエンゲージメントとTCFD開示の促進で」を再編集したものです。

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