コンサルタントコラム

労働災害に関わるリスクの基礎知識とその法的責任について

2024.4.19

労働災害に関わるリスクとは

労働災害発生に関する責任は事業を行っている事業者にあるとされています。近年、技術革新の進展、労働力人口の高齢化、雇用・就業形態の多様化など企業をとりまく社会構造の急激な変化は職場の安全衛生面にも大きな影響をおよぼしています。このような状況下で、労働災害のリスクも多岐にわたり、事業者の責任もますます重くなってきています。

わが国の労働災害の現況
1950年代に6,700人を超えていた労働災害による死亡者数は2021年には867人、40万人を超えていた休業4日以上の死傷者数は2021年には149,918人となっています。しかし、2021年の死亡者数は4年ぶりに前年比で増加となり、死傷者数は1998年以降で最多となりました。この結果には新型コロナウイルス感染症へのり患による労働災害として、死亡者数89人、死傷者数19,332人が含まれており、感染症の影響を強く受けています。新型コロナウイルス感染症による労働災害の人数を除くと、各業界の労働災害防止に向けた継続的な取り組みにより、死亡者数は減少傾向にある一方で、死傷者数は長期的には減少傾向を示しているものの、ここ数年は増加傾向にあることがわかります。したがって、今後もさらなる労働災害防止に向けた取り組みを行うことが必要であると考えられます。このような背景として、次のような点が挙げられます。

  • 現場における安全衛生活動が担当者任せになっている、災害発生後の事後対策を中心とする活動になっている等、安全管理に行き詰まり感があること
  • 団塊世代の熟練社員が大量に退職したことにより、ノウハウが継承されず安全管理を担う人材が不足していること
  • 産業の高度化などに伴い多様化するリスクに十分対応できていないこと

労災に関して企業が負う法的責任とはどのようなものか?

事業者が労働者(従業員)を雇用する、すなわち労働契約を結ぶということは、労働者は事業者の指示に従って業務を遂行している限りにおいては、当該労働者に対して“ケガや職業性疾病にはかからせません”ということを約束することを意味します。つまり、事業者(ならびに代理人としての管理監督者)は、労働者に対して安全衛生管理の義務を負っており、もし義務を怠ったことが労働災害発生の直接的、間接的原因であれば、契約を履行しなかったとして法的責任を追及されることになります。

  1. 刑事責任
    労働災害を発生させると、労働安全衛生法の違反がなかったか労働基準監督署の調査が行われ、違反があれば刑事責任を追及されます。刑事責任では、労働安全衛生法違反のほか、刑法第211条の業務上過失致死傷の罪に問われることもあります。

    1. 労働安全衛生法違反
      労働安全衛生法および労働安全衛生規則など関連諸規則には、事業者が労働災害を防止するために守らなければならない多くのことが規定されています。労働災害が発生すると、労働基準監督署がこれらの規定に違反していないかどうかを調査し、違反の事実が確認されれば、事業者および管理監督者は最高3年の懲役もしくは最高300万円の罰金に処せられます。
    2. 業務上過失致死傷
      業務上過失致死傷とは、業務上必要な注意を怠って人を傷つける、または死亡させることをいいます。例えば、工場での作業中や建設現場でのクレーン操作中に注意を怠ったことにより、機械に巻き込まれる、吊り荷の下敷きになるといった事例があります。この場合、警察署は誰が必要な注意を怠ったかを調べます。その結果、業務上過失致死傷として認定された場合は、刑法211条により5年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金が科せられることになります。なお、労働安全衛生法違反の行為に伴って死亡または傷害事故が発生すると、大抵の場合は業務上過失致死傷の罪に問われ、両方の処罰を受けることになります。

  2. 民事責任
    事業者は事故の過失の有無などにかかわらず、労働基準法に基づき一定の災害補償責任を負います。さらに、事業者に落ち度があって労働災害が発生した場合には、労働基準法上の災害補償責任のほかに民法上の損害賠償責任を負うことがあります(民法415条「債務不履行」、民法709条「不法行為責任」)。

    1. 安全配慮義務違反
      安全配慮義務とは「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事者間において、当該法律の付随義務として、当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務」(1975年2月25日最高裁判決)とされています。労働契約法(2008年3月1日施行)第5条では、「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することが出来るよう、必要な配慮をするものとする」と規定されており、「労働者の安全への配慮」が明文化されています。労働契約には事業者の労働安全衛生法の遵守が含まれることは周知の事実です。この労働安全衛生法は、労働災害の発生につながる重要かつ重大なもので、職場や作業に存在する客観的・不変的な危険事項について、事業者に遵守を強制している刑事罰を背景にした法律であり、労働契約関係上の事業者の安全配慮義務を根拠としたものです。上記のように労働契約には安全配慮義務が含まれていますが、労働安全衛生法の遵守は安全配慮義務の履行の必要条件ではありますが十分条件ではなく、安全配慮義務は労働安全衛生法に定める義務より広いことに留意する必要があります。

    2. 安全配慮義務を履行するには
      安全配慮義務の履行については(ア)労働関連法令、規則を遵守していたかどうか、(イ)予見可能性があったかどうか、(ウ)回避可能性があったかどうかの3点がポイントとなります。すなわち、安全配慮義務者(事業者)は、条文で規定されている作業であったなら、その条文の内容をよく吟味し、まず法律が求めている処置を行い、さらに、災害が発生するとしたらどのような災害が発生しうるかを予見し、それを回避するためにはどのような対処方法が必要かを十分吟味する必要があります。

      以下に安全配慮義務を尽くすための例をあげます。
      • 労働安全衛生法で努力義務とされているリスクアセスメントを始めとする職場の安全衛生活動により、潜在するリスクを含めて不安全状態、不安全行動の発見に努める。
      • 予知された危険の回避→できることからすぐ実行する。すべてをやろうとしても経済的、時間的理由から実行できず、結局安全配慮義務違反につながる。
      • 安全作業標準の徹底→具体的な安全行動を記載して読みやすい工夫をする、ポイントを抽出してビジュアル化するなど現場で工夫する。
      以上のような対策が求められます。

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