コラム/トピックス

労働安全衛生における安全配慮義務の基本的な考え方について

[このコラムを書いたコンサルタント]

関口 祐輔
専門領域
安全文化醸成、安全管理全般、災害リスク関連の体制強化・支援に強み
役職名
リスクマネジメント本部 リスクマネジメント第一部長 主席コンサルタント
執筆者名
関口 祐輔 Yusuke Sekiguchi

2024.5.22

労働災害と企業責任(安全配慮義務)

労働災害が発生した場合、安全配慮義務違反を理由に、高額の損害賠償を請求される事案が多くなっています。安全配慮義務という考え方は、昭和40年代の最高裁判例で登場し、その後、2008年施行の労働契約法第5条で初めて安全配慮義務の内容が明文化されています。

労働災害が発生した場合、企業に対しては、一般的に「刑事責任」「民事責任」「行政責任」「社会的責任」の4重責任を問われる可能性があり、近年の労働者保護の法整備等の流れを受けて、以上の4重責任のうち、特に「民事責任」への注目が高まっています。「民事責任」においては、被災労働者やその遺族などから、労働災害で被った損害について、安全配慮義務違反を理由に、高額の損害賠償を請求されることもあり、1億円を超える損害賠償事案も増えています。

安全配慮義務とは

安全配慮義務という考え方が生まれたのは、昭和40年代に入ってからで、最高裁判所が初めて安全配慮義務を認めたのは、陸上自衛隊八戸車両整備工場事件(昭和50年2月25日最高裁判決)です。また、民間企業への安全配慮義務に関する初めての最高裁判決は、川義事件(昭和59年4月10日最高裁判決)であり、次のように述べられています。

「雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する施設、器具等を用いて労務の提供を行うものである。使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っている。」

厚生労働省通達(基発第0123004号)には、労働契約法第5条の安全配慮義務の内容が示されているので、下記のとおり紹介します。

  1. 「労働契約に伴い」は、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に、使用者は安全配慮義務を負うことを明らかにしたものであること。
  2. 「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれるものであること。
  3. 「必要な配慮」とは、一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではないが、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められるものであること。
  4. 労働安全衛生法をはじめとする労働安全衛生関係法令においては、事業主の講ずべき具体的な措置が規定されているところであり、これらは当然に遵守されなければならないものであること。



安全配慮義務の責任を負うのは、雇用契約上の使用者である法人や個人事業主でありますが、製造業を例に挙げると、実際には、工場長、部長、課長、職長等(管理監督者)へ権限移譲されていることも多いため、これらの方々が履行補助者とみなされ、安全配慮義務の責任が及ぶ可能性のある範囲に含まれます。また、実際に履行補助者が安全配慮義務違反を問われている裁判事例も多く見られます。

安全配慮義務は、前述のとお通り、労働契約上の付随的義務として認められているため、対象範囲は、正社員のみならず、有期雇用契約であるパートタイマーやアルバイトの方々にも及びます。また、過去の裁判例においては、元請企業と直接的な労働契約関係のない下請の従業員が被災した場合において、元請企業と下請企業の従業員との間に実質的な指揮命令関係があったとして、元請企業の安全配慮義務が認められたものもあります。

派遣労働者に関しては、その雇用契約は派遣元企業との間で締結されますが、業務における派遣労働者への指示等は、派遣先企業が行います。労働者派遣法では、派遣元企業と派遣先企業ごとに、労働安全衛生法の適用範囲が定められ、また過去の裁判事例においても、派遣元企業と派遣先企業両方に対して被災派遣労働者への損害賠償責任が認められたケースも存在しています。

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