労働現場の熱中症を防ぐには?暑さ指数(WBGT)を踏まえた基本対策
[このコラムを書いたコンサルタント]
- 専門領域
- 労働災害、火災・爆発、自然災害・防災他
- 役職名
- リスクマネジメント第一部 リスクエンジニアリング第三グループ マネジャー上席コンサルタント
- 執筆者名
- 水上 敬太 Keita Mizukami
2024.5.30
気象庁の発表によりますと、今年(2024年)の夏は、全国的に気温が高くなると予想されていて、労働現場や職場では例年以上に熱中症予防への対応が必要です。
この記事では、熱中症発生のリスクが高まる時期までに準備する対策のポイントについて、わかりやすく解説します。
今年の夏は暑くなる?
気象庁の発表によりますと、今年(2024年)の夏(6月~8月)は、地球温暖化に加え、南米ペルー沖の海面水温が上がるエルニーニョ現象の影響で、全国的に気温が高くなると予想されています。また、「4月ごろから暑くなる可能性があり、十分な熱中症対策をしてほしい」と呼びかけている報道もあり、労働現場や職場では例年以上に熱中症予防への対応が重要になります。
熱中症予防に向けた労働現場・職場での対策ポイントは?
今年2月末、厚生労働省は職場での熱中症予防対策を呼びかけるため、「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」実施要項を発表しました。
その中では以下の3点が重点項目として挙げられています。
- 暑さ指数(WBGT)の把握
- 労働衛生教育の実施
- 有訴者への特段の配慮
重点項目を説明する前に、まず暑さ指数(WBGT)について説明します。
そもそも暑さ指数(WBGT)とは?
暑さ指数(WBGT)とは、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい①湿度、②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、③気温の3つを取り入れた指標です。
ちなみに、数値が上昇すればするほど熱中症の発生可能性が上昇し、暑さ指数 (WBGT)が28を超えると熱中症患者が著しく増加することが、下の図を見るとわかります。
暑さ指数(WBGT)は労働環境の指針として有効であると認められていて、日本気象学会では以下の表のような「日常生活に関する指針」を公表しています。
続いて、「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」で挙げられた3点の重点項目を詳しく解説します。
(1)暑さ指数(WBGT)の把握とは?
昨年(2023年)の事例では、職場の暑さ指数(WBGT)を把握しておらず、その値に応じた熱中症予防対策が実施されていなかった事例が発生していました。
暑さ指数(WBGT)が労働環境の指針として有効であると認められていることからも、暑さ指数(WBGT)を把握して、それに基づいて対処することは熱中症対策として最も重要な取り組みです。
暑さ指数(WBGT)の把握は、日本産業規格 JIS Z 8504またはJIS B 7922に適合したWBGT指数計による随時把握を基本とします。同じ事業場であっても、個々の作業場所や作業ごとの状況によって差異があることに気を付けて、直射日光下での屋外の作業、炉等の熱源の近くでの作業および冷房設備がなく風通しの悪い屋内での作業では、特に暑さ指数(WBGT)に注意しなければなりません。
暑さ指数(WBGT)を踏まえて実施する熱中症予防対策の基本は、以下の3点となります。
- 作業環境管理
- 作業管理
- 健康管理
それぞれの対策のポイントは、以下の表のようになります。
(2)労働衛生教育の実施とは?
昨年の事例では、熱中症予防を目的とした教育を実施していなかった事例がありました。
また、熱中症が発症した際の対応内容も周知していなかった事例もあることから、熱中症が発生した場合に適切な救急対応がとれるように労働者を指導することが必要です。
管理者と労働者とでは、必要とされる教育事項が異なるので、以下の表を参考にしてください。
教育用教材としては、厚生労働省の運営しているポータルサイト「学ぼう!備えよう!職場の仲間を守ろう!職場における熱中症予防情報」に掲載されている動画コンテンツ、マニュアル、リーフレットを活用することをお勧めします。
外国語の資料もあることから、日本語を母国語としない外国人労働者に対しては、これらを利用しましょう。
加えて、熱中症が発症し状態が悪化した場合に対応できるように、救急対応などを労働者に周知することが必要です。先ほどのポータルサイトに記載されている携帯カード「熱中症予防カード」を活用することもできます。
各業界の具体的な対応としては、以下のような取り組み事例があります。
- 全作業員に災害防止協議会での教育内容が伝わっているかどうか、内容伝達報告書に署名させて確認している。また、毎日の朝礼でも熱中症予防を繰り返し説明している(建設業)。
- 外国人従業員には熱中症予防対策に関する母国語の基本教育の冊子を配布し、安全衛生管理の徹底を行っている(建設業)。
- 経営者のみならず職長や社員も「熱中症予防指導員研修」を受講している(建設業)。
- 体調不良時の早期発見と初期対応を適切に行えるよう、管理監督者に救命救急講習を受講させており、必要な応急キットも完備している(運送業)。
(3) 有訴者への特段の配慮とは?
死亡した人のうち、糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病などを有しているケース(有訴者)も見られ、その多くは医師等の意見を踏まえた配慮がなされていませんでした。
心臓病、糖尿病、高血圧、腎臓病、精神神経疾患、皮膚疾患などの持病がある場合、体温調節機能がうまく機能しないために熱中症のリスクが高いとされています。また、病気の治療のために薬を服用している場合も、薬の種類によって発汗の抑制や利尿作用があるものがあるため、熱中症の原因になることが指摘されています。
特に、生活習慣病・うつ病・不眠症の治療をしている人は注意が必要とされています。また、高年齢者についても、加齢に伴い心身機能の低下によって脱水症状や体熱放散困難になりやすいとされていることから配慮が必要です。
有訴者への各業界の具体的な対応をとしては、以下のような取り組み事例があります。
- 特に高齢者や持病の有る作業者については、二人一組で作業させている(建設業)。
- 産業医の指示を仰ぎ、健康診断における有所見者には特に丁寧に対応する(建設業)。
- 健康診断結果による配慮について、職長に共有している。特に該当者については巡視の際など に『体調はどうか?』『食生活はどうか?』『酒を飲みすぎないように!』などの声掛けを実施している(建設業)。
- 人間ドックおよび健康診断の結果を確認し、該当者については現場の仲間が注意して目を配り、少しでも異変がある場合には休ませる/午前中のみで帰宅させるなどの対応を行っている(建設業)。
- 健康診断書を提出させて有所見者を判断し、必要に応じて配置転換を行っている(建設業)。
- 高血圧の人には毎日血圧を測るよう指導し、結果によりその日の作業内容を考慮している(運送業)。
労働現場・職場での熱中症予防に向けた準備を
「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」では5月から9月をキャンペーン期間としています。
対策のポイントは以下の図で確認してみてください。この記事が、2024 年の熱中症予防対策の参考になれば幸いです。
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