コラム/トピックス

国際投資家団体NA100、自然資本分野の企業評価指標決定、2024年後半に初スコア

2024.6.24

自然と生物多様性の損失に対処するための世界的な機関投資家イニシアチブNature Action 100(NA100)は2024年4月25日、エンゲージメント対象に選定している企業100社が、投資家の要請にどの程度応えているかを評価するためのベンチマーク指標を公開した。

NA100は、欧州の機関投資家団体である「気候変動に関する機関投資家グループ(IIGCC)」と米国のESG投資推進NGOであるCeresが運営するイニシアチブであり、200以上の機関投資家(運用資産総額28兆米ドル)が参加している。2017年に気候変動分野で発足し、企業170社を対象に機関投資家が集団で集中的にエンゲージメントするClimate Action 100+(CA100+)の自然資本版として活動している。

NA100は、6つの重要テーマ「野心」「評価」「ターゲット」「実行」「ガバナンス」「エンゲージメント」を設定し、8つの主要セクターに焦点を当てている。具体的には、「バイオテクノロジーと医薬品」「農薬を含む化学」「消費財」「Eコマースを含む小売」「食品(肉・乳製品メーカーや加工食品メーカー)」「食品・飲料小売」「林業・製紙業」「金属・鉱業」のセクターが対象となっている。2023年9月に、これらのセクターのエンゲージメント対象企業100社が発表された。

今回公表されたベンチマークは、SBTN(1)やTNFDなどの既存の自然に関連する目標設定や情報開示の枠組みにおける目的と定義に沿ったものとなっている。ベンチマークは前述の6つの重要テーマに基づいて、6つのベンチマーク指標、17のサブ指標によって構成されている(下表)。各サブ指標の下にはより詳細な評価を行うための50のメトリクスがあり、各サブ指標を満たすために必要なアクションを企業が実行しているかどうかを測定する。それぞれのメトリクスとサブ指標を評価した後、各ベンチマーク指標について総合的な判定が行われる。

「実行」と「ガバナンス」の指標で特筆すべきは、先住民族に焦点を当てている点である。NA100は、企業が目標を達成するための計画を策定・実施する際に、「権利に基づくアプローチ」を優先するよう求めており、影響を受ける「先住民族や地域コミュニティ(IPLC)」と協力して計画を策定すべきとしている。

ベンチマーク指標には、権利に影響を与える可能性のある活動の計画と実施において、IPLCの「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を通じて、IPLCとしっかりしたエンゲージメントがなされているかどうかで企業は評価される項目が含まれる。先住民族と地域コミュニティの権利を認識・尊重し、FPICの原則に基づいた同意を得ることを、1次サプライヤーに要求していることを開示しているかどうかについても企業は評価される。

「ガバナンス」指標では、NA100は、企業がIPLCへの影響やエンゲージメントのマネジメントについて、取締役会や取締役会委員会が監督している証拠や、取締役がそれを監督するのに十分な専門知識を有している証拠を公表しているかどうかを評価する。

「エンゲージメント」指標には、自然関連の目標を達成するための企業のバリューチェーン・エンゲージメントが含まれる。企業が自然への依存や負のインパクトを減らす慣行を採用するためにサプライヤーに財務的、技術的支援を提供しているかどうか、および企業顧客とエンドユーザーの消費者を巻き込むかどうかのサブ指標が含まれている。さらに、生物多様性に関する国際目標である「グローバル生物多様性枠組み(GBF)」に関連する直接的または業界団体を通じた間接的なロビー活動を評価する指標も含まれる。その他のサブ指標は、企業によって悪影響を受ける個人やコミュニティのための「苦情および救済メカニズム」があるかどうかである。

「実行」指標では、企業が前会計年度に自然関連目標を達成するために支出をどのように割り当てたかを開示しているかどうか、さらに企業が将来の見通しに関するガイダンスを開示した場合、自然関連目標を達成するためにどのように支出を割り当てるつもりかを評価する。

NA100は今年の後半に本ベンチマークに基づく最初の企業評価を発表し、その後は毎年実施する予定である。これにより、投資家は企業の自然資本への取り組みや進捗状況をより詳細に把握し、持続可能な投資を促進することが期待される。一方、企業はこの評価を利用して、自然に関する投資家の期待を把握し、自社の進捗状況の追跡や同業他社との比較を行うことができる。

2024年の株主総会シーズンでは、いくつかの欧米企業で自然関連の依存・インパクト、リスク・機会の開示を求める株主提案がなされている。気候変動分野でそうであったように、今後、情報開示だけでなく企業の自然関連のガバナンス、目標、エンゲージメントの欠如など、より具体的な内容が株主提案の焦点となっていくことも考えられる。NA100の対象企業に入っていない企業も、投資家の期待を知るために本ベンチマークを確認することが推奨される。

<ベンチマーク指標・サブ指標一覧>
ベンチマーク指標 投資家の期待 サブ指標
指標1:
野心
2030年までに、自然の損失の主な要因への寄与を最小限に抑え、操業およびバリューチェーン全体で生態系を保全・回復することを公約する。
1.1.
企業は、バリューチェーン全体を通じて、自然の損失の主な要因を回避・削減し、生態系を回復・再生することにコミットする。
指標2:
評価
操業およびバリューチェーン全体で、自然に関連する依存、インパクト、リスク、機会を評価し、公表する。
2.1.
企業は、生態学的にセンシティブな場所に位置する、または隣接する、直接操業および上流および下流のバリューチェーンにおけるすべての資産と活動の場所を公表する。
2.2.
企業は、自らの事業活動およびバリューチェーン全体における自然への重要な依存とインパクトを評価し、公表する。
2.3.
自然への重要な依存とインパクトから生じるリスクと機会を評価し、その結果を公表する。
指標3:
ターゲット
自然に関連する依存、インパクト、リスク、機会に関するリスク評価に基づいて、期限を定め、状況に応じた科学的根拠に基づく目標を設定する。目標に対する年次進捗状況を開示する。
3.1.
自然の損失の主な要因を回避・削減し、生態系を回復・再生するために、包括的で測定可能な目標を設定する。
3.2.
自然関連の重要な依存とインパクトに関する目標が、公平で独立した第三者によって検証され、企業の気候目標を考慮した統合的な方法で策定されている。
3.3.
目標に対する進捗状況を年次ベースで公表している。
指標4:
実行
目標を達成するための全社的な計画を策定する。計画の策定と実施は、「権利に基づくアプローチ」を優先し、先住民族や影響を受けている地域社会と協力して策定する。計画に対する年次進捗状況を開示する。
4.1.
自然環境目標を達成するための戦略を公表する。
4.2.
先住民族と地域社会の権利を尊重し、擁護する。
4.3.
企業の財務方針が、自然環境目標の達成と整合している。
指標5:
ガバナンス
取締役会による監督を確立し、自然に関連する依存、インパクト、リスク、機会の評価と管理における経営陣の役割を開示する。
5.1.
取締役会は、先住民族や地域社会への影響やエンゲージメントを含め、自然に関連する依存、インパクト、リスク、機会を明確に監視している。
5.2.
取締役会は、自然に関連する依存、インパクト、リスク、機会に関連する問題を監視するための十分な専門知識を有している。これには、自然に対する会社の行動が先住民族や地域社会にどのような影響を与えるかが含まれる。
5.3.
自然関連課題の評価と管理の責任は上級役員レベルに割り当てられており、役員報酬の取り決めには自然に関する目標に対する業績が組み込まれている。
指標6:
エンゲージメント
業界団体、政策立案者、その他のステークホルダーなどのバリューチェーン全体の外部関係者と関わり、計画の実施と目標の達成を可能にする環境を作る。
6.1.
企業は、自然に関する目標の達成を支援するためにバリューチェーンにエンゲージメントしている。
6.2.
生物多様性計画に沿っていない所属団体に対して、直接的なロビー活動や期待することを公表する。
6.3.
企業は、自然関連課題について主要なステークホルダーを特定し、エンゲージメントし、これらの活動の成果を戦略と業務に反映させる。
6.4.
企業は、個人やコミュニティが自然に関連する企業の活動によって悪影響を受けたという苦情や懸念を提起することができる「苦情および救済メカニズム」を有している。

(出所:Nature Action 100 HP ”Nature Action 100 Company Benchmark Indicators”を基にMS&ADインターリスク総研が作成)

1)SBTNとは、自然に関する科学に基づく目標(SBTs for Nature)を設定することを促すフレームワークであり、技術的ガイダンスのことである。

【参考情報】
2024年4月25日付
https://www.natureaction100.org/~

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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.3」(2024年6月発行)の掲載内容から抜粋しています。
ESGリスクトピックス全文はこちらからご覧いただけます。
https://rm-navi.com/search/item/1721

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