コンサルタントコラム

株主代表訴訟の判決から見た、基準違反製品に関する不正の公表判断・タイミング

2024.6.28

2024年1月26日、大阪地裁で、基準違反製品に関する不正に端を発した株主代表訴訟の判決があった。

本訴訟は、A社が製造・販売していた製品について、性能数値を偽装して大臣評価基準(1)の認定を不正に取得し、基準未適合製品を販売していた事実をA社の親会社であるB社が公表したものの、不正発覚後、公表に至るまでに時間を要したことでB社に損害が発生したとして、B社取締役らの善管注意義務違反が追及されたものである。判決ではB社取締役4名に対し、約1.6億円の賠償命令が下った。

本訴訟の争点の1つに「国交省への報告及び一般への公表に係る任務懈怠の有無」がある。具体的には①報告・公表の是非、②報告・公表のタイミングについて、取締役らが善管注意義務を果たし、適時適切に対応したかに焦点が当たった。

まず①報告・公表の是非についてである。判決文では「建物の安全性に関わるものであるから(中略)出荷済みの製品が大臣評価基準に適合しないものであった場合には、可及的速やかに国交省に報告するとともに、一般に向けてかかる事実を公表することが求められる」と示された。納入先の対象物の安全性に影響を与えうる製品が基準未適合のまま出荷されている場合、当該事実を公表しない不作為は、善管注意義務違反になり得るといえそうだ。

また、②報告・公表のタイミングについて、判決文の中で次のように示されており参考になる。

「大臣評価基準に係る基準違反の内容、それによる影響の程度、改修の方法及び可否等の事情が明らかでないまま不正確ないし不確実な報告・公表をした場合、かえって不必要な混乱を招くなど当該製品や当該製品を用いる建物の安全性に対する信頼を損ねるおそれもあるものの、そのような調査に要するとし長期にわたって報告・公表をしないことは通常は相当ではなく、また、基準違反の内容やそれによる影響の程度等によっては、調査の途中においても速やかに何らかの報告・公表をすべき場合もあると考えられる。」

本判決は、当該事案の固有の事情等も考慮すると一般化できるものではないが、有事における対外的な公表に係る取締役の果たすべき善管注意義務の内容について参考になるといえよう。

1)建築基準法所定の国土交通大臣による認定において定められた技術的基準。判決文によると、A社は大臣認定の取得に際し、技術的根拠のない乖離値を記載して申請を行い、大臣認定を取得する等の問題行為を行っていた。

大阪地裁2024.1.26判決:
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/843/092843_hanrei.pdf

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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.3」(2024年6月発行)の掲載内容から抜粋しています。
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https://rm-navi.com/search/item/1721

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