レポート/資料

日本企業のTNFD提言に基づく情報開示の現状と今後の取り組み・開示のポイント【RMFOCUS 第90号】

[このレポートを書いたコンサルタント]

粟ヶ窪 千紗
会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
所属名
リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第五部
サステナビリティ第一グループ 上席コンサルタント
執筆者名
粟ヶ窪 千紗 Chisa Awagakubo

2024.7.4

見どころ
ポイント
  • 2023年9月にTNFD開示提言正式版が公表されてから約10カ月が経過しようとしている現在、日本では早速、TNFD提言を踏まえた情報開示を開始する企業が増えてきている。
  • 本稿では、TNFDのアダプターおよびフォーラムメンバーである企業のTNFD開示の現状を分析・考察し、今後の取り組みや情報開示においてポイントとなると考えられる点を解説する。

はじめに

企業等に対し自然関連の情報開示を推奨するTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の開示提言正式版(以下、「TNFD提言」)が2023年9月に発表されてから、約10カ月が経過しようとしている(本稿執筆現在)。
TNFDでは、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と異なり、4回のベータ版を経て正式版が公表されたことから、発表から1年足らずの現在でも、すでに一定数の日本企業がTNFD提言を踏まえた自然関連課題の把握と情報開示を始めている。
TNFD提言を踏まえた自然関連課題への対応は、TCFDに関する対応と性質が異なる部分もあり、どのように取り組みや情報開示を進めればよいのか苦慮している企業も少なくないものと想定される。
そのような状況を踏まえ、本稿では、TNFD提言に基づく情報開示を始めている日本企業の対応・開示状況を考察しながら、今後の自然関連課題の特定・管理、開示においてポイントとなる点を解説する。

1. 開示全体の現状

⑴TNFD提言に沿った開示の有無および開示構成
今回は、TNFDアダプターおよびフォーラムメンバーとなっている日本企業202社を対象に、2024年5月時点の開示状況を調査した。

  • TNFDアダプター(98社):
    2023年~2025年の会計年度に関する企業報告の中で、TNFD提言に沿った情報開示を行う意向を宣言する企業・金融機関
  • TNFDフォーラムメンバー(アダプターを除く企業・金融機関104社):
    TNFDの議論をサポートするステークホルダー組織である「TNFDフォーラム」に加盟する企業・金融機関

上記の対象企業202社のうち、統合報告書やサステナビリティレポート、WEBサイトにおいてTNFD提言に沿った情報開示を行っている、またはTNFDの任意アプローチであるLEAPを踏まえた情報開示を行っている、と判断されたのは54社であった。その開示構成の内訳は図1のとおりで、54社のうち半数以上の32社がTNFD提言の四つの柱(ガバナンス、戦略、リスクとインパクトの管理、測定指標とターゲット)に沿った開示形式をとっていた。一方、残る22社は初回開示として、LEAPアプローチのトライアル結果や、依存・インパクトの概観を開示していた。 現状は、一足飛びに四つの柱に沿った開示形式とせず、まずはできる範囲から分析・開示を始めている、という企業も一定数あることがうかがえる。

図1
【図1】開示の構成(MS&ADインターリスク総研作成)

(2) 一般要件および開示推奨項目に対する開示状況
開示を行っている54社における、TNFD提言の一般要件および14の開示推奨項目(図2)に対する開示状況注1)は図3のとおりである。・・・

ここまでお読みいただきありがとうございます。
以下のボタンをクリックしていただくとPDFにて全文をお読みいただけます(無料の会員登録が必要です)。

会員登録で レポートを全て見る