コラム/トピックス

「人的資本調査2023」に見る、企業の人的資本取組状況とは

[このコラムを書いたコンサルタント]

對間 裕之
専門領域
労働安全衛生、人材・組織リスク、健康経営
役職名
リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第四部 人的資本・健康経営グループ グループ長 主席コンサルタント
執筆者名
對間 裕之 Hiroyuki Taima

2024.7.22

環境変化が激しく不確実性の高い昨今において、企業が持続的に発展していくためには、組織内で働く人材のアイデアや行動力、創意工夫が必要不可欠です。このような状況を踏まえ、従来の人材管理という考え方から人材への投資すなわち人的資本経営にシフトして取組む企業が増えています。

上場企業には有価証券報告書において人的資本の情報を開示する義務が課され、これが契機となって人的資本経営に取組む企業も多くあります。まずは上場企業を中心に取組みが進んでいますが、このように開示が進むと、投資家だけでなく多くの求職者も企業の取組みを比較できるようになるため、企業規模に関わらず優秀な社員の維持・獲得の競争が激しくなることでしょう。つまり、現在は「人的資本開示競争時代」の始まりの段階にあり、今後もさらにこのような開示の競争は進んでいくと考えられます。投資家に評価されるだけでなく、在籍する社員に長く働きつづけてもらい、また外部から人材を獲得していくためには、人的資本に投資し、この取組状況を開示していく必要があるのです。

では、企業は人的資本に関して、どのような取組みを進めているのでしょうか。ここでは当社が共催する「人的資本調査2023」の結果概要から一部を紹介します。本調査は第2回目の開催となり、233社の回答のうち8割以上は上場企業になります。なお、前述のとおり人的資本への取組みや開示が企業規模に関わらず広がっていくことを考えると、非上場の企業にとってもこのような状況を把握しておくことは重要となります。

本調査の結果、多くの企業において取組みが進んでいる点として、人的資本の取組みをいかに企業価値向上につなげるのか社内外に伝えられるストーリーを構築していることや、人材戦略の可視化に経営トップが関与し自らこれを発信していることが挙げられます。開示が義務となる上場企業では、対外的な目を意識しながらこのような検討が進められ、併せて人材戦略の策定や具体的なKPIの設定、人材の育成や獲得の具体策を進めています。また、多様で柔軟な働き方を実現するため、人事制度の整備・改善と併せ、業務のデジタル化を進めています。

一方、多くの企業における課題点としては、将来的に必要な人材像やスキル、人数などを踏まえ、具体的な育成・獲得等の計画が策定できていないことや、人事システム間のデータ連携に課題がありKPIの進捗把握に手間がかかる点などが挙げられます。また、社内の優秀な人材の定着を目的として、これらの人材が望むような情報が何かを把握し社内に開示できていない企業も多くありました。

このような状況を踏まえると、多くの企業では、人材戦略の策定や可視化など大枠の部分についてはある程度の検討を進めていますが、それを実現・遂行するための計画や施策、効率的な推進にあたっての人事データの利活用などはまだこれからという状態にあることがうかがえます。

人的資本の取組みは一過性のものではなく、継続的かつ着実に進めていくことで効果が期待されるものとなります。自社の中長期的なビジョンの実現に向けて、どのように人的資本に取組むのか、組織として考え、行動し続けていくことが必要となるのです。

(2024年7月11日 三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)

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