第六次環境基本計画が閣議決定
2024.7.23
環境省は2024年5月21日に、第六次環境基本計画を発表した。同計画においては、現在の環境危機について、気候変動、生物多様性の損失および汚染の3つを世界的危機と整理したほか、ESG課題の転換点として「勝負の2030年」と評し、早期の文明の転換と社会変革の必要性を訴えている。
同計画では、環境を軸とした環境・経済・社会の総合的向上の次なるステップを示している。特に、同計画の目的として、「『環境保全』を通じた、『現在及び将来の国民一人一人の生活の質、幸福度、ウェルビーイング、経済厚生の向上』、『人類の福祉への貢献』」を設定し、従来の目標よりも国民一人一人に寄り添う姿勢を明確化している。計画の全体としては、従来の日本経済におけるGDP成果主義やモノの豊かさ(大量生産・大量消費・大量廃棄型社会)を優先する社会経済システムから、自然との調和、心の豊かさの追求、東京一極集中是正など、環境や国民一人一人のニーズを重要視する社会経済システムを目指すものとなっている。
また、上記を達成するために表1に示す6つの重点戦略を設定している。各重点戦略は自然資本および自然資本を維持・回復・充実させる資本・システムを戦略の基本としており、これらの戦略に基づき、国民・政府・市場の三つ巴での「共進化」を推進する。そのほか、気候変動対策や循環型社会の形成など6つの個別重点施策と、環境保全施策の体系整備を通して、計画の効果的な実施を行うとしている。2029年度に、本計画の見直しが行われる予定である。
【表1】環境・経済・社会の統合的向上の高度化のための6つの戦略
戦略の内容 | |
---|---|
1 | 「新たな成長」を導く持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築 ・自然資本を維持・回復・充実させる投資の拡大 ・環境価値の活用による経済全体の高付加価値化 ・金融や税制等を通じた経済全体のグリーン化 |
2 | 自然資本を基盤とした国土のストックとしての価値の向上 ・自然資本を維持・回復・充実させる国土利用 ・自立・分散型の国土構造の推進 ・「ウェルビーイング/高い生活の質」が実感できる都市・地域の実現 ・地域の特性を踏まえた統合的な土地利用 ・再エネ、アセス、生態系等の情報基盤整備 |
3 | 環境・経済・社会の統合的向上の実践・実装の場としての地域づくり ・地域の環境と経済・社会課題の同時解決 ・地域循環共生圏を支える無形資産の充実 ・地域経済のグリーン化 ・持続可能な地域のための「公正な移行」 ・失われた環境の再生と地域の復興 |
4 | 「ウェルビーイング/高い生活の質」を実感できる安全・安心、かつ、健康で心豊かな暮らしの実現 ・人の命と環境を守る基盤的な取組 ・心豊かな暮らしに向けた良好な環境の創出 ・心豊かな暮らしを目指すライフスタイルの変革 |
5 | 「新たな成長」を支える科学技術・イノベーションの開発・実証と社会実装 ・グリーンイノベーションに対する国民意識の向上・行動変容の促進による需要の創出 ・本質的なニーズ主導での技術的ブレイクスルー ・科学的知見の集積や基盤情報の整備・提供 ・最先端技術等の開発・実証と社会実装推進 ・環境分野におけるスタートアップへの支 |
6 | 環境を軸とした戦略的な国際協調の推進による国益と人類の福祉への貢献 ・いわゆる「環境外交」による国際的なルール作りへの貢献 ・環境分野における途上国支援 ・経済安全保障への対応 ・我が国の優れた取組の海外展開 |
今後、同計画に基づいて、これらの戦略の実行に関する新しい法規制の整備や、国・地方公共団体を通じた補助金の交付などの支援等が行われることが予想されるため、それらの活動を注視する必要がある。また、同計画においては国民・政府・市場の三つ巴での「共進化」を前提としており、国等の政策主導だけでなく、業界、企業、個人などの自発的な行動変容を検討していくことが期待される。
【参考情報】
2024年5月21日付 環境省 HP:
https://www.env.go.jp/press/press_03210.html
「ESGリスクトピックス」では国内・海外の最近の重要なトピックスをお届けしています
この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.4」(2024年7月発行)の掲載内容から抜粋しています。
ESGリスクトピックス全文はこちらからご覧いただけます。
https://rm-navi.com/search/item/1756