コンサルタントコラム

カーボンニュートラル実現に向けたサプライチェーン全体への取組拡大

[このコラムを書いたコンサルタント]

小島秀臣
専門領域
気候変動
役職名
リスクマネジメント第一部 リスクエンジニアリング第二グループ 上席コンサルタント
執筆者名
小島 秀臣 Hideomi Kojima

2024.9.3

1.カーボンニュートラルが必要な背景

今夏も35℃超の猛暑日が続いており熱中症警戒アラートの発令が常態化している。世界気象機関(WMO)は2023年の世界平均気温は観測史上最も高いと発表しており、気候変動リスクが日常生活に顕在化している。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断定し、人間活動による温室効果ガス(GHG)の増加が、気候変動リスクを増大させていることはもはや疑う余地がない。

今後数十年の間にGHG排出量が大幅に減少しない限り、21世紀中に+2℃の温暖化を超え、過去300万年以上前例のない領域に到達する可能性が高い。この状況下で温暖化を抑える為には、GHG排出の多数を占める事業活動において、カーボンニュートラル(CN)実現に向けた大幅なGHG排出量削減取組を推進出来るかどうかにかかっている。

2.企業のカーボンニュートラル取組 大企業からサプライチェーン全体への取組拡大

2015年のパリ協定以降、気候変動関連情報開示や脱炭素に向けた目標設定などを通じ、大企業を中心にCNに取組む動きが加速しており、その動きはサプライチェーンである中小企業にも拡大してきている。

その背景として、多くの大企業は、サプライチェーンのCO2排出量について、自社内で入手可能なデータを用いて推計してきたが、算定精度に欠けるという課題があった。例えば仕入金額データを用いて算定した場合、実際のCO2排出量は変わらなくても、購入材の値上げや値下げによってCO2排出量が上下してしまう結果となる為である。そのような課題に対し算定精度を高める手段として、大企業はサプライチェーン企業自身にCO2排出量を算定させ、そのデータ提出を求めることで算定精度の向上を図っている。

しかし、大企業がサプライチェーン全体のCO2排出量削減を考えた場合、精度向上だけではなく、もう一歩進んだ脱炭素取組が必要である。その取組として注目されているのが、部品や原材料等の製品単位でのCO2排出量を提示、削減可能性を分析するカーボンフットプリント(CFP)である。

3.サプライチェーン全体でのGHG排出量削減実現に向けたCFPの活用

CFPとは、製品やサービスの原材料段階から生産、輸送、使用、廃棄、リサイクル段階に至るまでのライフサイクル全体を通したCO2排出量を算定し表示する仕組みである。

CFPはサプライヤーで取得された使用電力量などの実際のデータに基づき算出されたCO2排出量(一次データ)である為、より精度の高いサプライチェーンCO2排出量算定を可能とする。更には各段階のCO2排出量を可視化し、代替素材の検討や輸送効率や生産効率の向上、エネルギーの省エネ・再エネ化などによってサプライヤーが自社で削減した量の反映を可能とすることから、サプライチェーン全体での排出量削減にも貢献する。謂わば、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減を実行する手段としてもCFPの重要性が高まっている。

一方、サプライチェーン全ての企業がCFPを活用したCO2排出量算定や削減行動に対応出来るとは限らず、今後はサプライヤーの選別が進んでいくと考えられる。サプライヤーにとっては、取組み次第でビジネスを拡大するチャンスにも失うリスクにもなりうる。

気候変動は身近な日常に迫っている、社会に求められた喫緊の課題である。CN実現に向けて各企業が掲げる大幅なCO2削減目標達成の為には、自社削減努力に留まらず、CFPを活用してサプライヤーに削減を働きかけ、サプライチェーン全体で排出量削減が出来るかが鍵となる。

(2024年8月8日 三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)

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