コンサルタントコラム

「実業団アスリート」の経済的な価値はどのくらい? お金に換算できない価値を見える化できる「仮想評価法」とは

[このコラムを書いた研究員]

岡田芳樹
専門領域
教育、評価研究、システムデザイン思考
役職名
上席研究員
執筆者名
岡田 芳樹 Yoshiki Okada

2024.9.9

この記事の
流れ
  • パリオリンピック日本代表選手の約8割は「実業団アスリート」?
  • 実業団の経済的な価値は?
  • お金に換算できない価値を見える化できる「仮想評価法」って?
  • 実業団の経済的な価値を見える化するとしたら…
  • 研究が進む欧米諸国 日本の「評価研究」の今後は?

日本の代表選手が大活躍したパリオリンピック。夢中で観戦して寝不足になった方も多いのではないでしょうか。その代表選手たちの約8割が「実業団アスリート」ということをご存じでしょうか?

この「実業団」。バブル崩壊のあと、“存在価値”が疑問視されるようになり、多くの実業団が休部や廃部に追い込まれています。ただ、その価値はどのように評価できるのでしょうか?実業団の経済的な価値を評価するとしたら…。こうしたお金に換算できない価値を“見える化”できる方法があるんです。

パリオリンピック日本代表選手の多くは「実業団アスリート」

2024年夏、フランスのパリでオリンピックが開催されました。日本からは409名の選手が参加し、国外開催のオリンピックで出場選手数は史上最多となりました。その選手たちの約8割が、企業に所属する「実業団アスリート」です。実業団は戦後日本のスポーツを牽引する存在でしたが、バブル崩壊により多くの実業団が休部・廃部に追い込まれました。国内スポーツがプロ化したり、テレビやネットで海外スポーツを視聴できたりして、現在では実業団の存在は目立たなくなりました。

実業団の価値は数字で表しにくい

実業団選手は引退後のキャリアが不透明であったり、現役アスリートと社員の関係が希薄であったりするなど、実業団においては多くの課題があります。そもそも、企業が実業団を保有する目的は何でしょうか。ある調査では、企業の6割以上が「従業員の士気高揚・一体感醸成」を保有目的としていると回答しています。しかし、これらの回答はあくまで感覚的なものであり、数値化するのは難しいです。もし数値化することができれば、実業団の価値を定量的に評価することができるのです。これまで実業団の価値について多くの研究がなされてきましたが、定量的に評価している事例は現在見られません。

評価しにくいものを数字で表す「仮想評価法」

数値化しにくいものを数値化する評価方法に「仮想評価法(contingent valuation method)」というものがあります。仮想評価法とは、市場がないものに対して仮想的に市場を作って考えようとするものです。1947年、ドイツの経済学者シリアンシイ・ウワントラップによって初めて提唱されました。

例えば、「小学校の校庭を芝生化するとしたら、いくら寄付しますか?」や「現在の公立図書館のサービスに対して、いくら支払っても良いと思いますか?」などと、支払い意思を尋ねて定量的に評価します。この評価法の最大のメリットは、理論上どの財やサービスに対しても適用できる点にありますので、実業団の価値という測定困難な対象にも適用できるのです。ただし、あくまでも仮想なので回答者が適当に答えてしまったり、質問者に気遣って本心と異なる金額を回答してしまったりするなど、バイアスがかかってしまうことがあり得ます。アンケート調査では、そうしたことを加味して評価する必要があります。

仮想評価法で実業団を評価するとしたら

仮想評価法を用いた実業団の評価について、今回のパリオリンピックを例にとって説明します。まずアンケートの対象者は、実業団を抱える企業の社員とします。アンケートにはまず、パリオリンピックの観戦料が座席などの条件の違いによって約3,360円から約7,000円であることを記載します。その上で、「あなたならこの観戦料にいくら支払いますか?」という同じ質問を、オリンピック観戦の前後で回答してもらいます。そうすることで、オリンピックを観戦した前と後で、観戦料の支払い意思額における変化を読み取ることができます。観戦前より観戦後の金額がアップしていたら、実業団の経済価値が向上したと評価することができます。こうして実業団の価値を数値化することができるのです。

これからの日本の評価研究に期待

世の中には定量的評価ができていないもが多く存在します。例えば、小学校低学年からの英語教育の効果、死刑制度による犯罪抑止の効果、インパクト投資の評価など様々です。この「仮想評価法」はこうした数値化しにくいものを、定量的に評価することを可能とします。日本では仮想評価法を用いた事例は少なく、欧米諸国に比べると発展途上と言えます。今後の日本の評価研究に注目してみてください。

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