コンサルタントコラム

酷暑で世界労働者の7割が生命・人体の危険、労災相当は2000万人超に、ILO報告書

2024.9.19

国際労働機関(ILO)は2024年7月25日に公表した報告書で、気候変動に伴う気温上昇や熱波などによる酷暑が原因で、生命・身体の危険にさらされる労働者が世界全体で約7割(24億1,000万人)に上るとの見解を明らかにした。

酷暑が労働者に及ぼす影響に関する報告書は「Heat at work: Implications for safety and health」。それによると、2020年時点で、「熱ストレス(身体が生理的障害なしに耐え得る限度を上回る暑熱)」を原因に世界で2,285万人以上が労働災害に該当、死亡者が1万8,970人に達するという。

酷暑による熱ストレスは、熱中症や熱射病の原因となり、労働者の認知機能を低下させ、事故・傷害を誘発する。長期的には心肺・腎機能の低下や呼吸器系疾患、メンタルヘルスの悪化などを引き起こす。死亡・疾病・傷害に伴う労働力の逸失や治療費用などが、世界全体で3,610億米ドル以上の損失になると推測する。

また、酷暑は特定の地域や業種に限定されないと指摘。酷暑の中で働く労働者が多い地域には、アフリカやアラブ諸国、アジア太平洋地域があり、例えばアジア太平洋地域では労働人口の74.7%が該当する。だが、上記地域以外でも、例えば欧州や北・南米では、2000年以降の約20年間で労働者が酷暑に晒される日数や、酷暑が原因の労働災害が増加。これまで酷暑とは比較的縁のなかった地域も含め、全世界的な課題となりつつあると分析する。

また、業種特性では、農業や建設のような屋外労働者だけでなく、屋内労働でも換気・空調の不備や機械から生じる熱などによって熱ストレスを受ける可能性を指摘。特に、断熱性の高い衣服や防護装備を着用する業種を高リスクに挙げた。

同報告書は、21か国を対象に、熱ストレスに関連する安全対策や法規制に関して、「求められる取り組み」の有無を比較。日本は、②涼しく、日陰で換気された休憩場所の提供、⑥熱ストレスと熱関連疾患に関する教育・啓発、⑦熱ストレスから保護するための個人用保護具の提供――に関するルール化が不十分と評価された。

<表「求められる取り組み」の評価項目>

酷暑下で作業可能な最長時間の設定
涼しく、日陰で換気された休憩場所の提供
水分補給の実施
休憩時間の確保
労働者の健康診断・モニタリング
熱ストレスと熱関連疾患に関する教育・啓発
熱ストレスから保護するための個人用保護具の提供

各国共通の傾向として、法規制が旧来の対策に留まり、近年の酷暑下の労働環境を踏まえた検討のアップデート不足を指摘。企業が、労働者との対話を通じて、労働現場での熱ストレスの実情や企業側が講じている既存の対策の妥当性、具体的に必要な追加対策の内容などの現状把握と、有効な対策の検討・実現にむけたフィードバックが重要とした。同報告書は、実際に労働者が具体的対策の検討に参画し、屋外労働者への日陰の休憩場所の確保や空調・換気設備の更新、熱ストレスに関する情報・研修機会の提供などを実現した事例を紹介している。

【参考情報】
2024年7月25日付 国際労働機関HP
https://www.ilo.org/ja/resource/news/ku-shu-ka-dong~

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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.6」(2024年9月発行)の掲載内容から抜粋しています。
ESGリスクトピックス全文はこちらからご覧いただけます。
https://rm-navi.com/search/item/1847

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