コラム/トピックス

繋がった世界とその敵

[このコラムを書いたコンサルタント]

梶浦勉
専門領域
危機管理・コンプライアンス・内部統制
サイバー・情報セキュリティ
交通分野・医療福祉分野
役職名
リスクマネジメント第三部 危機管理・サイバーリスクグループ グループ長 主席コンサルタント
執筆者名
梶浦 勉 Tsutomu Kajiura

2024.10.16

2001年に私が社会人として歩み始めたころ、「ユビキタス」という言葉が流行していた。この言葉はインターネットが遍在し、いつでもどこでも情報にアクセスできる環境を意味した。当時は小さな液晶ディスプレイのガラパゴス携帯と、ISDNから置き換わり始めたADSLでインターネットと繋がっていて、私たちにとっては遠い未来の話のようだった。しかし、あれから20年以上が経ち、私たちは今、ユビキタスな世界に暮らしている。この繋がった世界はフィジカル空間とサイバー空間の境界を曖昧にし、私たちに新たなリスクをもたらしている。

自身の日常業務を振り返ると、そのほとんどがサイバー空間に依存していることに気付く。オンラインでの会議やデータの共有、クラウドベースのアプリケーションの利用は日常茶飯事で、意識すらディスプレイの向こう側にある時間の方が長いかもしれない。ペンとノートでメモを取ると「効率が悪い」と言われるほど、フィジカル空間の作業は減少している。

近い未来に目を向けても、私たちの生活がますますデジタル化することが予想される。特にデジタルツイン技術やメタバースなど、実世界のあらゆる要素がサイバー空間に再現される時代が近づいている。また、フィジカル空間で活躍するロボットのAIですら、仮想空間で学習するようになっている。

この繋がった世界では、ビジネスや日常生活においてサイバー空間への依存度は高まり続け、多くのリスクがサイバー空間に収斂されていく。私たちの生活や仕事がデジタルに依存する限り、リスクもまたその空間に集中せざるを得ない。このような状況は、サイバーリスクを避けがたい存在とし、サイバーセキュリティの重要性を際立たせる。

実際、世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書2024年版」では、サイバー犯罪やサイバーセキュリティ対策の低下が10大リスクに挙げられている。また、誤情報や偽情報、AI技術による悪影響も上位に位置している。情報技術の発展が社会に圧倒的な利益をもたらす一方で、その悪用を企む勢力が存在するのもまた悲しい現実である。このような社会の変化は必然であり、私たちはこれを受け入れざるを得ない。

昨今、大きなサイバー事件やシステム障害がメディアを賑わせる中、企業やそこに所属する個人のサイバーリスクに関する危機意識は高まっているように見える。しかし、コンサルタントとしての経験から言うと、その危機意識の高まりと、現場への投資や体制の充足度は必ずしも一致していない。具体的には、多くの企業がセキュリティ対策に十分な予算を投じることに消極的である。これは、意思決定者がサイバーリスクの脅威とその影響について十分に認識していないことを示している。私たちのようにリスクマネジメントを生業としている人間は「リスクは無くならず、ただ形を変えるのみ」と経験則で知っている。意思決定者にお伝えしたい。「フィジカル空間から見えなくなったリスクは、姿を変えて、サイバー空間に隠れているだけなのかもしれませんよ」と。

私たちの繋がった世界はサイバーリスクという新たな敵を生み出した。この敵に対抗するためには、組織や個人が適切なリスクマネジメントを行い、セキュリティを高めることが不可欠である。サイバー空間への依存度が大きくなり、すべてが繋がっていく世界の中で、私たちはこの課題に真剣に向き合わなければならない。

(2024年10月10日 三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)

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