自社の「みどり」の価値を見直す好機に、緑地認証の活用を
[このコラムを書いたコンサルタント]
- 専門領域
- サステナビリティ・ランドスケープ・生物多様性
- 役職名
- リスクマネジメント第五部 サステナビリティ第二グループ
- 執筆者名
- 木村 駿佑 Shunsuke Kimura
2024.12.26
「『生物多様性は重要で企業は保全・回復に努める必要がある』と言われても、具体的に何をしたらよいか分からない」―。緑地や生物多様性を専門とするコンサルタントである自分が、現在の仕事について友人に説明した際に受けた最もありがちなコメントだ。「重要なのは分かるが、お金はかかるし、儲からないことをやる必要があるのか」という気持ちが言外にあるのだろう。この本質的な疑問は、私がご支援先として相対する企業のご担当者の少なくない方もお持ちだ。
確かに現在はビジネスに直結しづらいかもしれない。しかし、ビジネスにおける生物多様性や緑地に関する取り組みの重要性が着実に変わってきている。
気候変動に続き「生物多様性の損失危機」の問題は、2022年の第15回生物多様性条約締約国会議(COP15)で提唱された「生物多様性の損失を止め、反転させ、回復軌道に乗せる」というネイチャーポジティブの概念や、自然に関連するリスクや機会を理解し、開示することを目的とした「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」の枠組みに基づく情報開示の本格化など、近年ビジネスで話題となることが急速に増えた。これまでいわゆる「CSR」的に捉えられる事が多かった生物多様性への取り組みが、あらゆる業種・ビジネスと直結しリスクと影響を検討・実行しなければならないフェーズに移行してきている。
――と、力説されても、冒頭の友人のように「生物多様性に対して何をすべき分からない」や「TNFDの開示は一通り行ったものの、具体的にどのように生物多様性に貢献出来るのか」と思い悩む向きもあるだろう。
では、自社が持つ緑地の価値を改めて見直すことから始めるのはいかがだろうか。緑地の特性に合わせ、生物多様性保全に加えて、Well-being、グリーンインフラ、気候変動対策、環境教育の場などとしても活用できる。そのような「緑地の価値」について考える際に、定量的で客観的な指標として緑地の認証制度がある。
24年11月に国土交通省がスタートさせた優良な緑地計画に対する認証制度「TSUNAG(つなぐ)認定」(優良緑地確保計画認定制度)である。生物多様性・気候変動・Well-beingという3つのテーマに関する指標を軸に、緑地に関わるガバナンスやマネジメント体制などの項目で緑地を認証する、新しい制度だ。自社緑地の質への‘お墨付き’を得られる上、補助金や支援者とのマッチングなどのインセンティブが用意されている。ぜひ認証の取得を目指して頂きたい。
現在のように生物多様性に関する価値観が醸成される前から、工場での手作りのビオトープや、その地域に残された林、希少種が生育する緑地の保全など、緑地や生物多様性に地道に取り組んできた企業は多い。認証制度の普及・拡充や社会意識の変容で、これまでの努力や苦労による生物多様性への貢献が、正しい形で評価・活用されるようになること、その結果、会社が評価されビジネスとして成功し、結果的に企業価値向上につながることを願いながら、企業が持つ緑地や生物多様性の価値を見逃さないよう、支援に努めていきたい。
2024年12月12日 三友新聞掲載弊社コラム記事を転載