コラム/トピックス

防火・防災、安全活動推進策の考え方

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
リスクサーベイ
役職名
リスクマネジメント第一部 リスクエンジニアリング第三グループ グループ長
執筆者名
工藤 信介 Shinsuke Kudo

2023.12.11

筆者は企業のリスクマネジメントに関するコンサルティング業務を担当しており、顧客企業の工場等を往訪して、防火・防災対策や安全活動の促進策の支援を行うことも多い。各企業では火災や労働災害等の防止に向けて積極的に防火・防災、安全活動等に取り組んでおり、特に生産現場や作業現場における社員全体の安全行動を促していくことや安全意識(安全文化)の醸成について様々な対策を講じている。特に従業員の行動変容や安全意識の醸成を図る際には、例えば4S(整理、整頓、清潔、清掃)などの基本的な活動を、地道かつ根気強く継続していくことが効果を発揮することもある。該当する企業においてこうした取組が防火・防災活動や安全活動にプラスの効果を与えた要因や、他部署や他組織で再現する際の要点を論理的に整理できれば、より多くの職場等での火災事故や労働災害等の削減に資することができるのでは、と日々考えている。

筆者の勉強不足を開示するようで躊躇う点もあるが、遅ればせながら、上記に述べた防火・防災活動や安全活動の要点などを行動経済学の観点で自分なりに整理することを、同分野を学習しながら進めている。これまでは企業の安全文化を分析する際に用いる構成要素の観点で整理し、理解していたが、別な観点での考察も加えることで、安全文化の醸成策の選択肢を充実化させることなどを目的にしている。行動経済学は既に自然災害時の避難行動の促進策や新型コロナ感染防止対策など各分野で応用されているが、筆者が学習する契機になったのはマイケル・ルイスの著作である「The Undoing Project」を読んだことにある。同書の内容は行動経済学の成り立ちに大きく関わる心理学者であるダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーの友情や人間模様を描いたものであるが、「プロスペクト理論(確実性効果・損失回避)」や「ヒューリスティックス」などを導き出していく過程が興味深く記述されていて、心理学や経済学分野に明るくない筆者にとっては、行動経済学に関連する資料の内容を理解するうえでとても役立っている。

「損失回避」は、比較対象とする水準である「参照点」から利得を得るよりも、損失の方を嫌うというものだが、例えば、参照点として火災や重篤な労働災害に遭った状態を想起させるような伝え方をして災害防止策の検討・実施を促すと、行動を促された作業者は防火・防災対策や労災防止策をより積極的に講じようとするかもしれない。実際に、将来起こるかもしれない労災事故などを題材として提示し、その防止策を参加者に考えてもらう研修を行うと、参加者は積極的に検討を加えてくれると感じている。

防火・防災対策や安全活動は根気強く続けていくことが求められる。その一方で、災害が起きないことは当たり前と感じてしまい、形骸化した状態や惰性で活動を継続する状態に陥ってしまうことがある。その観点では、「行動経済学の使い方」(大竹文雄 著)の「第6章1 仕事への意欲を高める」を参考にすると、防火・防災対策や安全活動の成果を現場作業者に分かりやすく掲示することは、「自分が意味のある仕事をしたと認識しやすい」(同書p.129)ようにする、防火・防災対策や安全活動の促進策の一つといえる。

ひとたび火災や労働災害などが生じると、そこには罹災者や受傷者がいることを常に念頭に置いて、少しでも事故・災害の防止に貢献できるように努めていきたいと考えている。

以上

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