コンサルタントコラム

最新技術が拓く災害予測の未来

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
自然災害
役職名
データアナリティクス部 リスク計量評価グループ 上席コンサルタント
執筆者名
井上 史也 Fumiya Inoue

2023.10.4

近年多発する自然災害は、多くの国民の生活を脅かしています。気候変動が進むと、自然災害はますます激甚化し、その被害がますます深刻になることは、もはや疑いの余地はありません。被害を正確に予測するには、災害の発生・規模だけでなく、都市の建物の配置も正確に把握することが必要です。私は台風に関する学術論文として「2018年台風21号の擬似温暖化実験による台風の強度の将来変化」を投稿するなど、入社以来一貫し、自然災害の将来変化やその被害推定手法の開発に携わっています。この記事では、災害や被害予測の研究開発の最前線について紹介します。

線状降水帯という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。線状に並んだ積乱雲が同じ場所で連続して発生し組織化することで、局地的に顕著な大雨を降らせ災害を引き起こします。気象庁は2022年6月から線状降水帯の予報を始めましたが、その的中率は20%程度であり、予測精度の向上に向けて盛んに研究されています。的中率の向上には、基礎研究だけでなく最新技術の活用が必要不可欠です。2022年、気象庁はJAXAと「線状降水帯の機構解明及び予測技術向上に資する研究の推進に関する協定書」という協定を結びました。降水の観測は地上のレーダーが主ですが、人工衛星を活用することで空からもリアルタイムで降水の状況を観測し、線状降水帯の発生メカニズムの研究を進めています。

人工衛星の強みは、昼夜を問わず広範囲を観測できることです。特に迅速な対応が求められる発災初期には、大きなメリットです。既に「だいち2号」という衛星が、2020年7月の九州豪雨をはじめ、様々な洪水で観測を実施し、被害の全容の把握や復旧に活用されています。

都市の建物についての取り組みとして、国土交通省が「建物・都市のDX」と題したプロジェクトを推進しています。個々の建物情報の3次元デジタル化である建築BIM、都市全体の3次元デジタル化であるPLATEAU、各建物に振られるIDである不動産ID、これら3つの取り組みを一体化し促進することで、日本全国で建物の配置を正確に把握する試みです。これらの取り組みは、いずれも被害予測の精度向上に寄与することが期待されています。例えば、都市のビルを詳細にモデル化することで、ビル風のような都市内部の風の強さを再現されることが、最新の学術研究で示されています。建物・都市のDXが進めば、暴風による被害推定について、更に研究が推進されることが期待できるでしょう。

また、このプロジェクトの成果物が、既に研究開発に活用されている事例もあります。福島県郡山市では、浸水想定マップとPLATEAUを重ね合わせることで、洪水を3次元的に可視化し、一般に公開しています。また、建築BIMと不動産IDを組み合わせることで、災害時の建物被害の全容を把握することも仕組み上は可能です。これらのプロジェクトは災害や被害予測だけに焦点を当てたものではありませんが、都市全体の災害時の被害状況の把握や、迅速な復旧に大きく貢献するでしょう。

当社はグループに損害保険会社を有するという強みを生かし、災害に係る様々なデータを分析し、災害に係る様々なソリューションを開発しています。私は、自らの専門性を磨き続けると同時に、最先端の情報を常にキャッチアップし、組み合わせることで、新たなソリューションの開発や災害予測の高精度化を実現し、お客様の防災・減災に資していきたいと考えています。

以上

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