
EUDR、国別リスク区分を定める規則案および各国分類案を提示
2025.7.9
欧州委員会は2025年5月22日、欧州森林破壊防止規則(EUDR)の実施規則を採択し、牛肉・カカオ・コーヒー・パーム油・ゴム・大豆・木材の7品目について、原産国を「低リスク」、「標準リスク」、「高リスク」の3段階で格付けするEU規則案と各国の分類案を提示した。この規則は、EU市場にこれら7品目を流通・提供・輸出する事業者に対し、生産地まで遡ったデューデリジェンスを初めて義務付けるものである。適用時期に関しては、大企業が2025年12月30日、中小企業は2026年6月30日となっている。
リスク分類は、国連食糧農業機関(FAO)の2020年世界森林資源評価(FRA)を活用し、①2015~2020年の年間森林面積減少率が0.2%未満かつ年間森林減少面積が7万ha未満、②年間森林減少面積が1,000ha未満、③主な森林減少要因が農地拡大ではなく都市化のいずれかである場合に、「低リスク」と認定している。②の条件については、森林減少の絶対面積が小さいにもかかわらず、相対面積が大きいために森林面積減少率が高くなる小国の状況を考慮している。いずれも該当しない国は「標準リスク」に分類される。それぞれの定量的条件の+25%以内に位置する「ボーダーライン国」については政策枠組み能力・執行能力・データ透明性・EUとの協力の4項目を評価し、一定基準を満たせば「低リスク」へ引き下げられる。国連安全保障理事会もしくはEU理事会の経済制裁対象国は自動的に「高リスク」へ格上げされる仕組みとなっている。
この制度の主な目的は3つある。第1にリスク区分ごとに検査率を差別化し(低リスク国1%、標準リスク3%、高リスク9%)、EU加盟国当局による対象事業者・商品の検査を効率化すること。第2に低リスク国からのみ調達する事業者にはデューデリジェンス手続きを簡素化し、森林保護をインセンティブ化すること。第3に、各国のガバナンス改善を促し、EUの支援と連動してサプライチェーンの森林破壊フリーを推進することである。
初回リストでは、EU27カ国や日本・米国・中国・インドなどが「低リスク」、ブラジル・インドネシア・マレーシア・コートジボワールなどが「標準リスク」、ロシア・ベラルーシ・北朝鮮・ミャンマーが「高リスク」と分類されている。欧州委員会によれば、すべての国は透明かつ客観的な手法で評価され、結果は随時更新される。
企業への影響として、単一貨物に複数原産国が含まれる場合は最も高いリスクが適用され、「高リスク」貨物は検査や手続きの長期化によりコスト増や遅延リスクが高まる。推奨される対応策は、①取引先のリスク区分を確認し、「高リスク」・「標準リスク」の取引先については欧州委員会で定められているデューデリジェンス(情報収集、リスク評価、リスク緩和措置)を行って自社事業に与える影響を評価すること、②リスク区分の変更を契約条件や価格に反映できるよう契約内容を見直すことである。
リスク区分 | 初回分類国 | 事業者デューデリジェンス | 想定される企業への影響 |
---|---|---|---|
低リスク | EU各国 日本 米国 中国 インドなど |
情報収集のみ | 税関手続きの簡素化 |
標準リスク | ブラジル インドネシア マレーシア コートジボワールなど |
情報収集 リスク評価 監査等のリスク緩和措置 年次報告の義務 |
当局の査察による輸送遅延 契約拒否 罰金(自社におけるEU内での総売上高の最大4%) 税関または当局による商品押収 EU市場への輸入および販売の禁止 |
高リスク | ロシア ベラルーシ ミャンマー 北朝鮮 |
情報収集 リスク評価 監査等のリスク緩和措置 年次報告の義務 |
当局の査察による輸送遅延 契約拒否 罰金(自社におけるEU内での総売上高の最大4%) 税関または当局による商品押収 EU市場への輸入および販売の禁止 |
出典:欧州委員会資料をもとにインタ総研作成
また、2026年にはFRA2025を反映した見直しが予定されており、リスク区分が変動する可能性があるため、関連企業は積極的なエビデンスの収集や政府に対する森林保全政策の推進を働きかけることが望ましい。
総じて、EUDRの国別リスク区分は、企業の気候変動対策・自然資本戦略における重要な要素であり、事業収益やオペレーションコスト、さらには投資家や顧客からの信頼にも影響がある。関連企業はEUDRの動向を注視し、必要な対応を積極的に進めることが求められる。
【参考情報】
2025年5月22日付 European Commission HP: https://green-forum.ec.europa.eu/deforestation-regulation-implementation/eudr-cooperation-and-partnerships_en