コンサルタントコラム

気象予報士として考える最近の線状降水帯とその予報について

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
リスクマネジメント/気象学/海洋学/雪氷学
役職名
関西支店 リスクマネジメントグループ 主任コンサルタント
執筆者名
古川 崚仁 Ryoto Furukawa

2023.5.2

これまでは豪雨災害といえば台風に関連することが多かったが、令和2年7月豪雨(熊本豪雨)では死者・行方不明者86名、住宅被害16,000棟以上、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)では死者・行方不明者245名、住宅被害50,000棟以上が発生しているなど、線状降水帯による豪雨災害が増加している。そこで今回は線状降水帯について紹介したい。

線状降水帯とは

線状降水帯は線状に並んだ個々の積乱雲が連なり、水平スケールは往々にして台風より小さい。一つの積乱雲は水平方向に数キロから十数キロ程度と小さく、個々の積乱雲の盛衰と時間及び位置を予想することは現在の予報技術では困難である。そのため予想できるのは発生のしやすさ程度であり、天気予報から詳細な情報を得て事前に備えることが難しい。

線状降水帯の発生過程は概ね次のとおりだが、詳細は未解明な部分が多い。

  • 大気の状態が不安定な場で大気下層に暖かく湿った空気が流れ込む。
  • その暖湿な空気が前線や地形の影響で持ち上げられる状態が継続することで積乱雲が連続的に発生する。
  • 発生した積乱雲は大気中層の風に流されることで線状に分布する。

個々の積乱雲の寿命は1時間程度と短いが、連続的に発生することで見た目上、停滞し長時間同じ場所で強雨が降ることになる。なお、近年線状降水帯が話題にされるようになったのは観測体制や分析手法の高度化により顕在化したためである。線状降水帯自体は昔から発生しており突然始まった現象ではない。しかし、地球温暖化などに伴う海面水温上昇による水蒸気量の増加が線状降水帯の発生に影響を及ぼしている可能性がある。また、大気中に浮遊する微粒子(エアロゾル)が雲の形成に影響を与えていることも指摘されている。

集中豪雨の増加

線状降水帯を含む集中豪雨の発生数は増加傾向にある。1976~2020年の45年間、全国1,178地点において3時間あたり130ミリ以上の降水の発生頻度は2.15倍に、特に梅雨期の7月に限っては3.8倍に増大している(※)。例えば線状降水帯が発生した前述の熊本豪雨や西日本豪雨も梅雨期であった。両災害に限らず梅雨期には梅雨前線に向かう強い南寄りの風である下層ジェットにより大気下層に暖かく湿った空気が流れ込むことがあり、豪雨災害の危険性が高まる。

報道発表「集中豪雨の発生頻度がこの45年間で増加している~特に梅雨期で増加傾向が顕著~」(気象庁気象研究所)

予報について

大雨が迫ると気象庁等や市町村では5段階の警戒レベルに応じて取るべき行動を示す。警戒レベル5が特別警報級、4が記録的短時間大雨情報や土砂災害警戒情報級、3が警報級、2が注意報級、1が早期注意情報に相当する。最新の情報を確認し、警戒レベル4の段階で避難を完了することが重要である。なお、気象庁では2021年6月より線状降水帯の発生時には警戒レベル4相当以上の顕著な大雨に関する情報を発表するようになった。さらに2022年6月からは線状降水帯について大雨の可能性を半日前から地方単位で通知するようになり、2024年には県単位、2029年には市町村単位で危険性を通知することを目指している。技術は日々進歩しているが、線状降水帯の予想が難しいことは変わりなく、日ごろから水災に関するハザードマップ等を活用しリスクを把握したうえで早めの備えをすることが大切である。

以上

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