コンサルタントコラム

待ったなしの生物多様性危機、企業の保全取り組みは将来世代への責任だ

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
生物多様性配慮型企業緑地 /グリーンビルディング/再生可能エネルギー /省エネ・節電
役職名
リスクマネジメント第三部 サステナビリティ第二グループ 主席コンサルタント
執筆者名
安齊 健雄 Takeo Anzai

2023.2.7

2010年に愛知県で開催された生物多様性条約締約国会議(COP10)から12年。その際策定された「愛知目標」の達成状況について、日本政府は20の個別目標のうち5つの目標は「達成した」が、8つの目標は「進捗したが、達成しなかった」と報告した。一方、国連は「世界全体では、かなりの進捗がみられたものの、20の目標で完全に達成できたものはない。各国の目標やレベルが、愛知目標と必ずしも整合していない」と総括した。総体では残念な結果といえる。

19年の国連総括報告によると、世界の生物多様性は危機的状況が続いている。両生類40%、植物34%、サンゴ33%、サメ・エイなど軟骨魚類31%、昆虫27%、哺乳類25%、鳥類14%などが絶滅の危機に瀕している。パリ協定(15年)以降に世界規模で対応が加速する気候変動に比べて、生物多様性へのそれは停滞が否めない。しかし、生物多様性の喪失は気候変動以上に危機的だ。22年の内閣府による認識度調査では、「生物多様性という言葉の意味は知っている」は29%に留まる。また、欧州委員会の科学者でヘルシンキ大のストローナ博士らが同年、スーパーコンピュータ上で現実世界の生物種と食物連鎖を再現・シミュレーションした結果はなんともショッキングだ。今後百年で地球上の生物多様性の4分の1以上が消失し、世界は6度目の大量絶滅に向かうという。

そのような中、22年12月にカナダ・モントリオールで、生物多様性条約締約国会議(COP15 )が開催された。コロナ禍の影響で2年遅れの開催だ。今回の主要テーマは愛知目標の後継「ポスト2020枠組み」を決定することだった。議論は多くの困難を経ながらも、最終的に「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」が採択された。主に、▽2030年までに陸・海それぞれ30%以上を保護・保全する「30by30目標」▽ビジネスにおける影響評価や情報公開の促進▽侵略的外来種への対策▽気候変動による生物多様性への影響の最小化――など23の個別目標からなる。

現在日本では、国立公園などの保護区域が陸域で20%、海域で13%と、どちらも30%に満たないが、生物多様性保全に資すれば保護地域と同等と見なす「OECM」が用意されている。これを使って生物多様性の保全が図られていれば、民間団体や企業が所有する山林やビオトープ、工場やオフィスの緑地、手入れが行き届いた里山、ゴルフ場等も保護地域の対象になり得る。

現在日本企業は、気候変動の取り組みに注力しているが、23年からは自然資本に関するTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)による情報開示も本格化する。琉球大の久保田康裕教授は、保護地域を国土面積の30%まで効果的に拡大した場合、動植物の相対絶滅リスクを70%減少させる効果があり、30by30目標が科学的に有効であることを、生物多様性推進のため自ら立ち上げたスタートアップ企業シンク・ネイチャーとの協働研究で結論づけた。

環境省が22年に立ち上げた「生物多様性のための30by30アライアンス」には、現在116の企業・自治体等が賛同する。企業が生物多様性に本腰を入れる条件がようやく揃ったといえよう。このままでは、何千もの動植物の絶滅を目撃するであろう22世紀の世代から「あの頃の大人たちは一体何をしていたのか」との批判は免れない。企業には、将来への責任として「生物多様性危機」を認識し、気候変動と同様の取り組みが求められる。

以上

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