コンサルタントコラム

タイの洪水リスクと企業における洪水対策のポイント

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
災害リスクマネジメント  リスクサーベイ・診断/ロスプリ提案 等
役職名
インターリスクアジアタイランド 主任
執筆者名
佐藤 周作 Shusaku Sato

2022.10.21

今年もタイにおいて洪水が発生している。例年、タイの雨期である6月から10月には局所的に激しい雨が降り、タイ全土において洪水危険が高まる。2011年にはタイ中央部を縦断するタイ最大の河川であるチャオプラヤー川が氾濫し、広範囲が浸水した。全77 県のうち65 県が被災し、死者815 名、約950 万人が被害を受けたとされており、タイ経済に深刻な影響を与えた。タイ進出の日本企業においても直接的または間接的に大洪水の被害を受けた。幸いなことに2011年の大洪水以降、同規模の洪水は発生していない。しかし、日本人駐在員には定期異動もあり、日本人の間では大洪水による苦難の記憶や、その時得られた教訓が薄れてきているように思われる。本稿では改めて見直すべき事業所の洪水リスクへの備えについて紹介したい。

(1) 最新の情報を入手する

チャオプラヤー川流域は世界的に見ても極めてまれな低勾配の地勢である。洪水は長い時間かけて浸水が進行し、また水が引くのにも長い時間がかかる。そのため拠点に水が到達するまで時間的余裕があり、事業所近隣の降水量、河川・水路の水位や主要ダムの貯水量等の情報をモニタリングすることで、事前に有効な対策を講じることができる。日本ほど情報が整備されていないものの、タイにおいても気象局(TMD: Thai Meteorological Department)やタイ防災局(DDPM:Department of Disaster Prevention and Mitigation)等が気象・河川に関する情報を公開しているので、参照されたい。

(2) ハード・ソフト両面で対策する

2011年の大洪水後、主要な工業団地において防水壁や排水ポンプなどの、敷地内への水の浸入を防ぐハード対策が講じられた。そのような工業団地に入居していない場合には、浸水被害を減らす方法を推奨したい。敷地内が浸水する前提で、操業に必要な設備やユーティリティ設備を高い位置に移設する等の方法が有効である。重要設備が被害を受けなければ、資産の損害は限定的となり、また事業復旧までの期間を短縮できる。しかし、洪水の被害を低減するためにはハード対策のみでは難しく、ハード面の対策に加えて、洪水到達時間から逆算したアクションプランの策定、緊急避難措置、代替生産体制の構築、早期復旧戦略の検討などソフト面で対応すべきことも並行して検討しておくことが必要である。

(3) 従業員への訓練・教育を実施する

タイの各企業においては従業員を対象に火災を想定した訓練・教育が行われているが、水災を想定した訓練・教育を実施している企業は少ないと感じる。緊急時に適切な行動ができるように、洪水時に事業所の被害を軽減する方法と従業員とその家族の生命を守る方法について知識を提供する必要がある。

本稿ではタイにおける洪水対策のポイントを紹介したが、対策方法の基本的な考え方はタイ、日本、その他の国々も大きく変わらないと考える。気候変動の影響で世界中で洪水のおそれがあり、海外に拠点をもつ日本企業においては、その土地の特徴を踏まえながら上記のポイントについて見直すことをお勧めしたい。

以上

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