コンサルタントコラム

再現期間の考え方

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
自然災害リスク分析/確率統計
役職名
リスク計量評価部 リスク計量評価グループ 主任コンサルタント
執筆者名
大久保 創理 Sosuke Okubo

2022.9.6

「100年に一度の大雨です」-最近よく聞かれる表現である。しかしこの3年を振り返ってみると、2020年7月には九州豪雨により球磨川が氾濫、翌年8月には大雨特別警報が全国各地で発表され、今年7月は宮城で大雨による氾濫など、100年どころか毎年の様相である。この表現に違和感を抱いている方も多いのではないだろうか。

この「~年に一度」という表現は再現期間とよばれる。その事象がどれだけ「珍しいか」を表す「確率」と不可分の関係であり、再現期間の年数が大きいほど「珍しい」事象と言える。今回は再現期間を理解するうえで抑えておきたいポイントを述べたい。

例えば「再現期間50年の日降水量が150mm」と耳にしたとき、それは年最大日降水量が150mm以上になる年は平均して50年に一度という意味になる。再現期間を使用するメリットは、異なる事象を同じ「珍しさ」の指標で比較できることである。
しかし、この150mmという絶対値の大きさには注意が必要である。気象庁の異常気象リスクマップによると、同じ再現期間50年の日降水量であっても、網走(北海道)では115mmであるのに対し、石垣島(沖縄)では322mmと地点により大きく異なっている。つまり、115mmという日降水量であっても、網走では50年に一度ほどの珍しさであるのに対し、石垣島では頻繁に起きる事象ということが分かる。このように、その事象の「珍しさ」(リスクの大きさ)を評価するとき、降水量の絶対値だけでは判断できず、再現期間という指標に変換することで初めてその事象の「珍しさ」の比較が可能となる。

このように意味を理解すれば便利な再現期間であるが、注意も必要である。まず、再現期間はその土地における降雨の「珍しさ」を表すのであって、日本(世界)全体での事象の「珍しさ」を表している訳ではないということである。近年の気象災害はゲリラ豪雨や線状降水帯など局所的な現象が多い。こうしたニュースが全国で報じられるたびに、日本全体を考えてしまうが、その場所における「珍しさ」であるということは念頭に置きたい。
また、再現期間は推定値であり、不確実性が多く含まれていることである。例えば前述の異常気象リスクマップでは約100年分の観測データを使用して極値分布とよばれる統計モデルに当てはめている。しかし、数百年規模の再現期間になると、観測データも存在しないため、その現象が本当に100年に一度の現象なのか、あるいは300年に一度の現象なのかという再現期間のずれも大きくなりがちである。こうしたモデルの不確実性により予測が大きく外れる可能性があることにも留意が必要である。

最後に、この指標を用いた当社サービスを紹介する。当社は国内外に所在する資産に対し、例えば10年や100年に一度生じうる損害額を算出するサービスを提供している。ある資産にどの位の損害が発生するかは、その所在地におけるハザード強度(地震の揺れや洪水の浸水深等)と資産の脆弱性が複合的に組み合わさって決まるが、再現期間という指標に統一することでリスクを定量化し横比較することが可能となる。さらに予測の不確実性を少しでも減らすため、損害データを使用した検証を定期的に実施することで精度の向上につなげている。

「100年の一度の大雨です」-こうした情報を聞いたとき、過度に恐れるのではなく、その地域の「珍しさ」を理解すると同時に、自分が住む場所の状況を調べてみるなど一歩踏み込んでみるのはいかがだろうか。

【参考文献】
異常気象リスクマップ(気象庁)

以上

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