コンサルタントコラム

企業価値の向上につながる人的資本経営と情報開示とは

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
人的資本経営と開示の取り組み(ISO 30414認証の支援を含む)/企業の健康経営取り組み/企業のメンタルヘルス対策全般
役職名
リスクマネジメント第四部 健康経営サービスグループ 上席コンサルタント
執筆者名
山口 高弘 Takahiro Yamaguchi

2022.8.5

本年6月7日に内閣官房が発表した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の中で人的資本についての取組方針が定められた。これに基づき7月中には内閣官房より「人的資本可視化指針」が発表される見込みとなっている(7月8日執筆時点)。また、金融庁では有価証券報告書での人的資本情報開示について議論されており、早ければ2023年度から上場企業に開示が義務付けられる見込みである。

こうした動きの背景として「人的資本が企業価値の源泉である」という認識が政府や投資家に広がっていることが挙げられる。「モノからコトへ」という言葉にも表されるように、企業価値の中核は有形資産から無形資産に移ってきている。無形資産には新しいビジネスモデルやテクノロジー、優れたデザインやブランドの形成などが含まれるが、そうした無形資産を生み出すのは人の力、すなわち「人的資本」であるといえる。

人的資本への取組を考える際には「人的資本経営」と「人的資本の開示」という2つの流れを意識する必要がある。1つ目の「人的資本経営」は経済産業省がまとめた「人材版伊藤レポート」の中で使われている言葉であり、「コストとしての人的資源管理から投資としての人的資本経営への転換」が唱えられている。中でも最重要とされているのが「経営戦略と人材戦略の連動」であり、人材戦略の立案は人事部のみならず経営層や取締役会がコミットする事項であるとされている。2020年の人材版伊藤レポートでは人的資本経営を実現するための3P・5F(3つの視点と5つの共通要素)モデルが発表され、2022年5月には3P・5Fモデルを具体化するためのアイディアの引き出しとして「人材版伊藤レポート2.0」が発表されている。

2つ目の「人的資本の開示」は有価証券報告書等で求められる予定の「制度開示」と各社が企業価値向上のために自発的に取り組む「任意開示」に分けられる。開示にあたっては、自社の経営戦略と人材戦略のつながりや人材戦略におけるKPI設定とその達成状況について、ストーリー立てて開示することが求められる。つまり、人的資本の開示の前提には人的資本経営の実践があるといえる。内閣官房の「人的資本可視化指針(案)」(6月20日発表)では任意開示を行うに当たり、ISO 30414等の人的資本開示についての既存のフレームワークを活用することが推奨されている。開示の準備段階としてそうしたフレームワークを用いて情報整理を行うことは有意義だろう。

以上、人的資本経営と情報開示について解説してきたが、前述の通り両者を連動させ、「人的資本経営によって自社の人的資本の価値を高め、その取組や結果を分かりやすいストーリーにして開示する」という流れを意識する必要がある。

最後に、人的資本経営と情報開示の取組を進めるには、人事分野のテクノロジー活用が重要になる点を指摘しておきたい。人的資本経営でも情報開示でも、自社が重要KPIとして定めた人的資本の指標がタイムリーに可視化でき、分析のための経年データがスムーズに取り出せることが必要となる。また、有価証券報告書等へ開示する上で、情報の正確性が不可欠となる。人事の領域は採用、給与など各分野のシステムが別々に存在している傾向にあるが、そうした情報を一元的に可視化し、戦略的な分析に繋げるためのテクノロジー活用が、人的資本経営や開示取組の成否を左右することになるだろう。

以上

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