コラム/トピックス

企業の人権尊重は三方よし、持続可能な日本社会へ取り組み深化に期待

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
サステナビリティ経営/「ビジネスと人権」/SDGs/ESG/気候変動/自然資本/危機管理/リスクマネジメント
役職名
リスクマネジメント第三部 サステナビリティ第二グループ グループ長
執筆者名
松井 慎哉 Shinya Matsui

2022.7.13

「ビジネスと人権」に、国内の関心が高まっている。企業の人権尊重取り組みへの社会的要請が具体化しているためだ。例えば、昨年改定のコーポレートガバナンス・コードは、上場企業に人権尊重取り組みを要請した。政府は、企業向けに「人権デューデリジェンス」の指針を策定中だ。政府首脳は将来の法制化にも言及する。国内でも近々に、先行する欧米並みの対応が求められる見込みだ。

こうした背景を受け、弊社への問合せが増えている。弊社も支援コンサルティングメニューを用意し好評を得ている。ただ、そうした意識の高い企業でも、「人権」の認識範囲が狭いことが気になる。「児童労働・強制労働」などを念頭に、「海外・途上国での問題」とする認識が大半だ(これらは実は国内でも起きているのだが)。

「ビジネスと人権」の範疇はもっと広い。例えば、参加者限定のセミナーでの蔑視発言が暴露された経営者が解任されたニュースは記憶に新しい。他にも、ハラスメントやジェンダー、LGBTQなどを巡り、企業が法的・社会的責任を問われるケースが相次ぐ。これらを不運・不用意な"炎上"案件と片付けるのは事の本質を見誤る。世間の「人権侵害」の意識が広がり、批判の沸点も下がった結果、強い怒りを買ったと見るべきだ。

「世知辛い話だ」と、浮世の流れを受け入れがたい層もあるだろう。しかし、人権課題は国内でも根深く、それらの多くは看過されてきた。代表的なのは男女格差。先進国で断トツの最下位評価が例年の定位置だ。LGBTQでも、法制度の遅れが顕著。また、外国人が「働きたい国」の順位も低下傾向という。外国人労働者への差別的待遇が度々露見するのと無縁ではないだろう。これらの問題の放置とここ数年の日本の凋落との因果を感じざるを得ない。人権課題の改善は、日本社会の持続可能性に関わる最重要課題のひとつと言えるだろう。

「人権配慮で会社がつぶれてしまう」――。とはいえ、気候変動や人的資本など、企業が対応すべきサステナビリティ課題が次々現れており、嘆き節も分かる。その点、人権に関しては朗報がある。「リスク」だけでなく「機会」でもあることだ。つまり、対応次第で、社業にプラスの効果が期待できる。最も端的なのは人材の確保。例えば、LGBTQ当事者は国内人口の約1割で、左利きとほぼ同じ割合という。女性にいたっては、人口の半分だ。無理解や偏見、差別的な待遇などのせいで能力を発揮しきれていない人材が多くいる。逆に言えば、有能な人材が潜む鉱脈が手付かずにあるようなものだ。活用しない手はない。

企業が人権尊重取り組みを進めることで、当事者の尊厳が守られ、社会課題が改善し、さらには企業自体の価値向上も期待できる。まさに「三方よし」である。いまや、この事実に着目する投資家が増えている。政府が人権を含む非財務情報開示のルール化を進める理由でもある。つまり、人権尊重に取り組むほど、企業は「儲かる」のだ。

企業価値向上のため人材を最大限生かすという合理的判断が浸透すれば、因習や思い込みなど根拠なき差別の呪縛は霧消する。自社の利益のため、そして日本社会の持続可能性のために、国内企業による人権尊重取り組みの深化に期待したい。

以上

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