クロスロード訓練のご紹介
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- BCM(企業向け、医療機関向け)/危機管理、コンプライアンス/その他RM全般
- 役職名
- 関西支店 災害・事業RMグループ コンサルタント
- 執筆者名
- 中島 翼 Tsubasa Nakajima
2019.10.7
近年、地震や豪雨・台風など、日本各地で自然災害による甚大な被害が多発しており、対策の重要性が一層増している。企業においては緊急時対応ルールの策定にとどまらず、訓練により役職員の対応力を向上させておくことが望ましい。しかし訓練の多くは、避難訓練等にとどまっていることが多いのが実態といえる。そこで本稿では、緊急時訓練の一つとして、机上で行うクロスロード訓練を紹介する。
まず、「クロスロード」とは、大地震の被害軽減を目的に文部科学省が進める「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」の一環として開発された、カードゲーム形式の防災教材のことであり、内閣府防災のホームページでも紹介されている。最初のコンテンツである「神戸編・一般編」が2004年に作成され、それ以降、「市民編」、「学校安全編」等のコンテンツが作成されている。
「クロスロード」では、「人数分用意できない救急食料をそれでも配るか」のような、災害時に発生する「ジレンマ」が題材にされている。このようにどちらを選んでも何らかの犠牲を伴う事項について、参加者は「イエス」「ノー」を選び、多数決によって勝者を決定する。しかし重要な点は勝ち負けにあるのではなく、参加者同士が自分の選択について議論を行うところにある。
「クロスロード」の特徴や効果としては次の2点が挙げられる。
- 災害時に起こりうるジレンマと意思決定を体験することにより、緊急時における意思決定力を養うことができること
- 参加者間の議論により、自分とは異なる考え方に触れ、意思決定の幅が広がること
このような手法は、災害時の対応力向上に大いに資することから、企業においても取り入れることを推奨したい。題材については「大地震が発生して周囲の安全が確認できない中、子どもが心配で帰りたいという社員の帰宅を許可するか」「社内の備蓄品に限りがある中、支援を求めてきた近隣住民に備蓄品を配布するか」などが挙げられる。
加えて、筆者の訓練コンサルティングの経験から、更に効果を高める方法を紹介したい。それは各題材における「イエス」「ノー」の決定に際して、①選択の理由、②選択の条件、③ジレンマが発生しないための事前対策、といった考え方の切り口をあらかじめ設定しておくというものである。そうすることで議論の拡散を防ぐとともに、より参加者の思考を深めることができる。
例として以下に「帰宅判断」という題材に対する切り口別の内容を列挙する。
① 選択の理由
帰宅許可の理由:家族の安否に係わりやむを得ない、法的強制力がない
帰宅不許可の理由:安全を保障できない、地域の救命活動の妨げになる
② 選択の条件
帰宅許可の条件:自宅まで10km以内の社員に限る、集団で帰宅させる
帰宅不許可の条件: 日没が迫っている、周辺に危険個所がある
③ ジレンマが発生しないための事前対策
家族の安否確認策として171(災害用伝言ダイヤル)を社員に周知徹底しておく
このように、このクロスロード訓練は、議論を通じて参加者の思考を深めることを特徴としているため、企業において発災時の各種判断基準を構築する際や、策定した基準を関係者に深く周知する際に活用するとよいだろう。
自然災害の脅威が一層深刻化している昨今、被害軽減のための事前対策と発生時対応の強化は喫緊の課題である。本稿で紹介した内容がそうした課題を解決する一助となれば幸いである。
以上