令和のハラスメント対応
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- 危機管理/コンプライアンス/リスクマネジメント
- 役職名
- リスクマネジメント第三部 危機管理・コンプライアンスグループ マネジャー・上席コンサルタント
- 執筆者名
- 梶浦 勉 Tsutomu Kajiura
2019.8.5
「あの人はセ・リーグ」、「あの人はパ・リーグ」―。楽しげな会話が飛び交う居酒屋で、隣の会社員と思しき二人連れの発した言葉が耳に飛び込んでくる。野球の話かと思いきや、セクハラかパワハラをする人の隠語のようだ。なんでも「セ・パ両リーグ制覇」なんて強者もいるらしい。酒席の肴に盛り上がる程度であればまだしも、これが自社の話となれば笑い事では済まされない。現実の事例がSNSに投稿されれば、電子の速さで個人と勤務先が特定され、メディアも巻き込んだ不祥事となる可能性がある。企業にとっては大きなリスクだ。
本年5月にハラスメント規制法が成立し、パワハラやセクハラ、妊娠出産をめぐるマタニティーハラスメントに関し「行ってはならない」と明記された。また、大企業は来年4月以降、相談体制の整備などの防止対策が義務化されることになった(中小企業は以降2年以内の義務化で、当座は努力義務)。
ハラスメント防止に関して、セクハラは2007年、マタハラは2017年に、それぞれ企業の防止措置が法令で義務化されている。パワハラの対応が遅れた背景には、指導とハラスメントの線引きの難しさがある。今回の法改正におけるパワハラの定義は(1)優越的な関係を背景に(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により(3)就業環境を害する、の3要件を備えた場合となる。
「昔の指導も、今はパワハラ」―。そう嘆く管理職の方は多いと思うが、そんな泣き言を言っている場合ではない。令和の時代は、少子化による労働力の減少や年功賃金の崩壊、転職市場の活性化が重なり、労働力の価値が増している。多くの従業員にとって嫌な思いをさせられてまで同じ会社で我慢する必要がないのだ。貴重な労働力を維持するため、企業は社会の変化への対応に迫られている。
企業の対応に合わせ、管理職も変わらなければならない。ひとつ例を挙げれば、かつて新人は、先輩や上司から“ホウレンソウ”(報告・連絡・相談)の不備で怒られたものだが、最近はどうも違うらしい。“ホウレンソウ”には「“オヒタシ”(怒らない、否定しない、助ける、指示する)」が付き物で、ホウレンソウができていないと腹を立てる前に、まずは管理者自らにオヒタシができていたのかどうかが問われる時代となっている。
冷静に考えれば、そもそも企業の生産効率を上げるには、従業員のモチベーションをいかに上げるかが重要である。根性論や相手を不快な気持ちにさせる言動を振りかざすのは昔からも合理的ではなかったのだ。
最近、主要な鉄道の駅で、幼児が書いたような文字で大きく「人をぶっちゃダメなんだよ。」とデザインされたポスターを目にする。鉄道事業者が共同で駅員への暴力行為防止をアピールしたものだ。こんな当たり前の犯罪行為を啓蒙せざるをえないほど、いい大人のモラルが低いことが悲しい。
企業におけるハラスメントも同様である。法律での防止に頼らざるをえないほど、自浄機能が貧弱なのが現実だ。そんなことを令和の子どもたちに胸を張って説明ができるのだろうか。「人の嫌がることやっちゃダメなんだよ。」というポスターがオフィスの壁に貼られる前に、大人が自らを律して働きやすい職場を作る社会になることを祈るばかりである。
以上