コラム/トピックス

自動運転システムの実現に向けて

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
■交通リスク(鉄道・自動車における運輸安全コンサル、ロードキル・ロードエコロジー)
■システムリスク(上流工程におけるリスクマネジメントコンサル)
■医療福祉関連リスクマネジメント(事故防止)
役職名
総合企画部市場創生チーム マネジャー・上席コンサルタント
執筆者名
蒲池 康浩 Yasuhiro Kamachi

2016.2.2

自動運転システムは、各種マスメディアによる報道を見ない日はないと言っても過言でないほど社会的に関心の高いテーマとなっており、世界中のIT・自動車関連企業が開発にしのぎを削っている。日本においては、2015年の交通事故死者数が15年ぶりに増加(4,117人、昨年比+4人)したこともあり、この動きはさらに加速するだろう。

そもそも、企業のみならず国家レベルで自動運転システムの実現を目指しているのは、交通事故の削減に加え、高齢者等の移動支援と地域の活性化、渋滞の緩和、環境負荷の軽減、運送業界が抱える慢性的な運転者不足等の解決が期待されているからであり、すでに自動運転システムを支える技術の一部(自動ブレーキシステムなど)は実用化され、多くの運転者がその恩恵を受けている。

一方、自動運転レベル3(加速・操舵・制動を全て自動車が行い、緊急時のみ運転者が対応する状態)やレベル4(加速・操舵・制動を全て運転者以外が行い、運転者が全く関与しない状態)を実現するためには、更なる技術革新と信頼性の向上が求められている。小職は、ある自動運転車両の公道実験におけるリスクアセスメントに関与しているが、その経験からも、例えば、従来の機械的な安全性に加え、ソフトウェアの安全性、それらを組み合わせた場合の安全性などを様々な道路環境下でのシミュレーションや試験走行を通じて証明する必要性を痛感している。人間の運転者と自動運転システムの事故率で統計的な差を示すには100億km以上の試験走行が必要という意見もある。自動運転システムが社会に受け入れられるためにどのような方法で安全性を証明するかは今後の大きなテーマとなるだろう。

現在の道路交通法等は「人」が運転することが前提となっていることから、公道実験に関するガイドラインの作成や法律上の課題を検討する「自動走行の制度的課題等に関する調査検討委員会」(警察庁)や、法学研究者らが中心となった「ロボット法学会」設立準備研究会などが発足し、関係法令や事故時の責任の所在、被害者救済制度に関して議論が活発化している。一方、ある海外自動車メーカーは、すでに人工知能を使った高速道路向け自動運転補助ソフトの配信を開始、日本においても認可申請中(2016.1.4現在)である。また、別の海外自動車メーカーでは、外部から自動車のコンピュータネットワークに侵入され運転をコントロールされるなど重大かつ新しいリスクも顕在化している。今後は、競争領域を超えて各方面の有識者が連携しつつ議論を重ね、早急に対策や社会的コンセンサスを得る必要がある。

自動走行システムは、単なる技術の進歩というだけでなく社会制度や産業構造の変化をもたらす。そのような変化の時代において重要なのは、マルチステークホルダーの期待に応えることである。そのためには、自動走行システムの開発、普及に携わる者は、過度な競争原理や秘密主義にとらわれず、ISO26000 Guidance on social responsibilityに定義される説明責任や透明性、倫理的な行動、ステークホルダーの利害の尊重、法の支配の尊重などの原則に配慮し、コンセンサスを得ながら取り組みを進めていくことが重要と考える。その上で、ぜひ「個々の技術」から「システムの複合・統合化」、さらには「信頼性の向上」に関する課題を乗り越えることを期待したい。

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