ストレスチェック制度の導入と企業の対応
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- 安全とリスク対策にフォーカスした組織文化改革、事業継続、感染症対策
- 役職名
- 災害リスクマネジメント部 安全文化グループ 上席コンサルタント
- 執筆者名
- 小山 和博 Kazuhiro Koyama
2015.2.19
2013年度、精神障害関連の労働災害補償請求は、1,409件と過去最高を記録した。また、2013年度中、これらの請求に対する決定は、1,193件行われ、労働災害として認める決定が下ったのは、436件となった。労働災害として認められる率は36%となっている。
このような精神障害関連の労働災害の発生状況を踏まえ、2014年6月19日に労働安全衛生法が改正された。事業者は、2015年12月1日以降、従業員に対し、心理的負担の程度を把握する検査を受ける機会の提供を義務付けられる。従業員に心理的負担への気づきを促し、職場ストレス状況の検証に基づく職場環境の改善を図ることで、メンタルヘルス不調者を出さないというのがその趣旨である。
この制度の導入により、事業者に課せられる義務は2つある。
1つ目は、常時50人以上の従業員を使用する事業場において、ストレスチェック受検の機会を従業員に提供することである。機会を提供するのは使用者の義務とされる反面、従業員に対し受検を強制してはならないという仕組みになっている。
2つ目は、検査の結果、高ストレスと判定されたなど一定の要件を満たした従業員から申し出があった場合、医師による面接指導を実施することである。この申し出を理由として、解雇、雇用契約の不更新、退職勧奨などの不利益な取り扱いを行うことは禁止され、事業者は、面接指導の結果に基づき、医師の意見を踏まえ、必要に応じ就業上の措置を講じなければならない。この就業上の措置とは、従業員の実情に応じ、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数減少などが含まれる。
この点、企業としては、医師の面接指導による影響が大きいことに注意が必要である。医師の意見を踏まえ、就業場所の変更など様々な就業上の措置を講じなければならないとされた以上、従業員の高ストレス状態からの速やかな回復という利益と、企業側の事情との間で、すりあわせができる医師に依頼しないと、企業の事業活動に対する影響が大きくなる可能性がある。
本来、産業医は、このような役割を担っており、厚生労働省における検討会においても、ストレスチェックの実施者は、産業医が念頭に置かれていた。ただ、産業医の業務に対する理解度はまちまちである。産業医に依頼する場合は、十分な打ち合わせが必要となるだろう。
また、従来の産業医以外に依頼するのであれば、委託先の検討に当たっては慎重な検討を強くお勧めする。一部事業者は、性格検査や適性検査によりメンタルヘルスリスクを可視化するといった売り文句で営業活動を進めているが、この制度の目的はメンタルヘルス不調の未然防止であり、スクリーニングではない。従業員個人の診断結果は、従業員の同意なく事業者に提供することはできないため、スクリーニングを意図したとしてもその機能には限界がある。
診断結果を集団的に分析することで、特定の部署における職場環境の状況を把握することは可能である。事業者がこの結果を収集し、人事上の施策に生かすことには、従業員の個別同意は不要とされているものの、その性質上、多くの従業員で共有できるような性質の資料にはしづらい。
今回紹介したのは一例であり、この制度の導入に当たっては、様々な検討課題が存在する。施行日である12月1日まであまり時間がないことを踏まえ、各社における早めの検討が望ましいと考える。
以上