中国における安全意識
[このコラムを書いたコンサルタント]
-
- 専門領域
- 事業場における防災・安全管理
- 役職名
- インターリスク・上海 総経理
- 執筆者名
- 海司 昌弘 Masahiro Kaishi
2011.3.29
現在、目覚しい発展を続けているここ中国において、多くの日系企業も挙って進出し、ビジネスを展開している。その中で、これまでは「世界の工場」「モノづくりの拠点」として、中国沿岸部を主なビジネスの主戦場としていたのが、年々内陸部にも積極的に事業を展開し、「生産工場だけの機能」から「消費マーケットとしての中国」として、事業の方向転換・拡大を行う企業が非常に増大してきている。
事業活動を行っていくうえでは、ありとあらゆる様々なリスク要因が企業・個人を取り囲んでいることは皆が知るところであるが、ここでは、中国のリスクに対する考え方について簡単にご紹介したい。
中国では、“人”による事故災害の発生が、日本と比較してもまだまだ多いと思われる。性格・考え方や風習・習慣と言ったことも影響しているかと思われるが、中国でのビジネスを体験したことがある方は、「没有問題」「没有辧法」といったフレーズを一度や二度、もしくは度々耳にしたことがあるのではないだろうか。この「没有問題」「没有辧法」であるが、安全を確認した際や、また何か不具合等があった場合に、「何か問題はないですか?」との質問に、多くは内容も確認せぬまま「没有問題(問題ありません)」と答えられ、事故災害が発生した際に、「どうして事故災害が発生したのですか?」と質問すると、「没有辧法(仕方がない…)」とあっけらかんと責任逃れをしようとする時に用いられる。
時と場合によっては、これらは非常に便利なフレーズであるが、言い訳の聞かない、また何より、言い訳をさせない安全については、最も対極にある考え方で、リスクマネジメント上では、こういった考え方は命取りとなる。
「没有問題」は言い換えると、「小さな問題は、問題なしと解釈する?」、また「没有辧法」は、「事故災害が起きるのは、一定はしょうがない?」とも取られ、こういった考えでは、潜在するリスクを認識するのも困難であり、何より発生した事故災害を元に、原因究明を行い、改善を検討していくといった行動には、なかなか結びつかない。
また、事故災害が発生した際に、原因を追究するため担当者に質問等すると、当地では「突然、機械が…」「突然、暴風雨が…」「突然、(何々が…)」といった、あくまで突発的原因を理由とする光景をよく目にする。ただ本当に、事故災害は突然発生したのだろうか。殆どの答えは「ノー」である。事故災害が発生する原因として、大多数は、常日頃からの「不安全な行動」「不安全な状態」が積み重なっているのが実態である。
ここ中国でのビジネスは、成長著しい発展・進歩のスピードの中、「計画は発展に追いつかず」等ともよく表される。なかなか地に足をつけた計画を立てにくい実状かと思われ、安全やリスク対策は、とにかく後回しにされやすいテーマでもあるが、事故災害が起きた際には、「仕方なく、起きてしまいました」といった言い訳は通用するわけもない。計画を含め、しっかりと経営課題としてもテーマに盛り込み、トップ自らが積極的に関与し、その結果としてボトムアップも含めた事業全体でのレベル昇華が達成できるよう、お取組いただけることを願いたい。
以上