経団連調査から読み取る企業の社会貢献活動の変容
[このコラムを書いたコンサルタント]
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- 専門領域
- CSR(企業の社会的責任)/企業のリスクマネジメント/企業のコンプライアンス対策/その他法務リスク全般
- 役職名
- 法務・環境部 上席コンサルタント
- 執筆者名
- 松井 慎哉 Shinya Matsui
2008.4.1
やや旧聞に属する話題で恐縮だが、去る2月に日本経団連の「社会貢献活動実績調査結果」が公表された。同調査は、主に経団連会員企業を対象に毎年実施され、今年で15回目。それによると、回答企業が2004年度中に社会貢献活動(主に資金・現物寄付など)に支出した総額は1,508億円で、前年より2割以上増えた。
また、1社当たりの平均支出額も3億5,100万円で前年比5.1%増加。伸び率こそ全体総額よりも低いものの、社会貢献活動に支出した企業数が前年より61社も増えて430社となったことに注目したい。社会貢献活動に支出した企業の"分母"が大幅に増えたにもかかわらず、企業当たりの支出額も拡大した。つまり、社会貢献を実施した企業群の裾野が広がった一方で、各社の支出水準が全般的に底上げされたと言える。
同年度中には北陸・東北地方の集中豪雨や新潟県中越地震、スマトラ島沖地震など国内外で大規模な自然災害が相次いだため、多くの企業が義援金の寄付や救援物資の提供などの支援活動を活発化させたことが、支出総額を押し上げた一因と、調査結果は指摘している。
確かに、災害の発生は重要な要因に違いない。だが、筆者は、この支出額増加の背景に、昨今の日本におけるCSRの浸透を読み取る。つまり、CSRの認識が広まるに従い、自然災害という「社会的課題」の発生に際し、自らの社会的責任を果たす手段として社会貢献活動に着目する企業が増え、積極的に行動したことが支出額の増加につながったのではないかという論理だ。
CSRの浸透が、企業の社会貢献活動の"質"を変容させつつあることは、他の調査項目の結果からもうかがえる。その顕著な例のひとつに、寄付先別の平均金額に関する回答で、公益法人やNPOに向けられる比率が、国や地方自治体などの公的機関に比べて大きく伸びた点を挙げられるだろう。
ここ数年、国内のNPO・NGOも徐々に存在感を増し、活動領域の拡大とともに、優れた専門性で定評を得る団体も目立ってきた。企業としても、社会貢献活動の目標を実現するためには、活動がキメ細やかで対応にも融通がききやすいNPO等と連携した方が、より実効的と考えるのは自然の流れだろう。
一方で、たとえ"善行"と言えども説明責任の対象である、という企業活動に関する認識の変化が、大きく影響していると捉えるべきだろう。社会貢献活動が会社の資産を使用する以上、「この団体にこれだけ寄付することが、自社に如何ほどの利益をもたらす」ということが筋道立てて説明できなければ、株主などの理解を得るのは難しい。現に、CSRへの社会的関心の高まりが自社の社会貢献活動に与えた影響を問う設問には、「活動に関する情報公開の強化」の回答が最も多かった。説明責任のためには、寄付先も厳選せざるを得ない情勢なのだ。
「陰徳」という言葉がある。決してひけらかさず、人に見えない所で善行を積むのを是とする考えと言われ、日本企業の社会貢献やCSRへの姿勢を表わす代表的なキーワードだ。ところが、昨今の状況からすれば、陰徳には評価どころかむしろ説明責任の観点で疑義を生じかねないリスクがある。
もちろん、社会貢献活動は、「良き企業市民」として不可欠な責任だ。しかしながら、その真価は支出金額の多寡で測られるものではない。それよりも、社会的課題の改善と企業価値の向上のために活動を通じて実現しようとする自社のビジョン・目標を明確にするとともに、その実現のためにプロセスやコスト、成果などの面でステークホルダーの批評に耐え得る"品質"を実現することが重要になっている。
今回の調査結果で、そうした企業の社会貢献活動の変容を改めて印象付けられた格好だ。
以上