コラム/トピックス

静電気の防災管理

[このコラムを書いたコンサルタント]

役職名
災害リスク部 上席コンサルタント
執筆者名
関口 祐輔 Yusuke Sekiguchi

2008.4.1

冬のこの時期は乾燥し火災の発生率が高くなる。乾燥に伴い湿度が低下し、「静電気」が発生しやすくなる。可燃性蒸気やガスの火災・爆発が起きるとその着火源として必ず「静電気が原因か?」という言葉が出てくるように、静電気は物体の種類または固体、液体、気体の如何にかかわらず発生し、摩擦、剥離、流動、噴出、衝突、破壊、飛沫、滴下等の過程で発生する。すなわち静電気は何れのものでも発生するため、発生そのものを防ぐことができない。しかし、発生を抑制することは可能である。

静電気はプラスチックやゴムの絶縁物に帯電しやすい。金属のような導体は接地対策を取られていれば帯電はしない。帯電防止対策は火災・爆発防止の上、重要な施策となる。次のような対策が挙げられる。

帯電防止対策

  1. 金属導体に対する場合 金属導体を接地することは最も基本的な静電気対策である。目的によって静電気を大地に漏洩させるグランディングと2個以上の独立した金属導体を電気的接続により互いを同電位にするボンディングがある。
  2. 不導体に対する場合 プラスチックやゴムの絶縁体に金属やカーボンなどの帯電防止剤を混入させ帯電を防止する方法と加湿により室内の湿度を上げて帯電を防止する方法がある。
  3. 除電 電化を中和させ帯電を防止する方法がある。

作業環境が固定された工場と違い、様々な作業環境で常時多量の引火性液体(ガソリン・アルコール類・灯油・軽油・重油・潤滑油等)を輸送・取扱う業界がある。最大で28,000Lのタンクローリー(移動タンク貯蔵所)が街中を走行し、私たちの日常生活において身近に存在している。
輸送業者は危険物施設から危険物施設への供給役として一般の公道を使用して輸送するため、消防法以外にも道路運送に関する各種法律を遵守することが義務付けられている。また、顧客となる石油元売メーカー(以下、メーカー)から管理者及び乗務員に対し、災害防止に関する数多くの要求事項がある。例えば、危険物を輸送・取扱業務に従事するため、乗務員はメーカーへの登録制となっており、各種訓練及び実技試験をパスした者のみ乗務適正者として従事することができる。また、メーカーによっては、乗務員に対して薬物検査も実施しており、個々の乗務員に対する安全意識向上と作業手順の遵守を非常に厳しく要求し、継続的な安全訓練・教育を義務付けている。

静電気対策については、積込作業におけるアース設置・人体除電・タンク内ベーパーリカバリー回収作業等の作業手順があり、荷卸作業においても静電気対策に関する作業手順が細かく定められている。これらはメーカーを中心に静電気に対する対策が厳しく管理されている。
例えば、静電気帯電防止のため、プラスチック容器のような絶縁物の使用禁止を指導されている。荷卸作業時にタンクローリー配管内の残油処理を実施する。作業場所の立地状況に応じて、傾斜の下った他方の吐出口から残油を絞る作業がある。この作業には金属製のアースクリップが備付けられた受け缶を使用し、残油絞り時に車体とボンディングする作業手順がある。受け缶に絞った油を納入先給油口に注ぎ入れる際、プラスチック製品ではなく金属製の漏斗を用いてアースクリップのボンディングも義務付けている。非常に面倒と感じられる作業ではあるが、このような細部の静電気対策と安全作業が災害(火災)防止に繋がっている。

最近、工場調査の際に見かけることは、少量危険物貯蔵所での防火管理が不十分ということである。引火性液体を金属製容器に入れアースも接地されている工場は多いが、中には、プラスチック容器が使用されているのを見かける。当然ながら、アースは取られていない。静電気の観点から考えると非常に危険である。
また、洗浄工程においてもどぶ付け洗浄を作業工程の一つとして実施しているところもある。金属製の升の中は引火性液体が多量に入っているにもかかわらず、アースが取られてない状況を見かける。吹き付け塗装においてもアースを取られずに作業されているのも見かける。これらは防火管理上、静電気対策が不十分であり、火災リスクの危険性が非常に高い。

如何なる危険作業でも人間の慣れもしくは「普段どおりで事故が発生していないから大丈夫」という安易な意識が大きな災害に繋がる。工場火災というのは、多大な損害をもたらすだけでなく、企業としての社会的信用を喪失してしまう可能性が非常に高い。リスクを軽減するための防災管理は、企業として経営陣・管理者が主体となり、防災対策が取られた作業環境を整備する必要がある。現場で作業する従業員・協力業者の安全意識向上のための安全教育・訓練を継続的に実施し、各々についてレビューすることが必要である。目の届かない細部に潜在的なリスクがあり、特に現場で作業する一人一人の目をいかに災害防止に繋がる「防災の目」として持ち続けられるかが重要である。

以上

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