コラム/トピックス

偽装問題を考える

[このコラムを書いたコンサルタント]

専門領域
CSR、内部統制、危機管理、その他
役職名
コンサルティング第一部 CSR・法務チームリーダー 上席コンサルタント
執筆者名
田村 直義 Naochika Tamura

2008.4.1

偽装事件が後を絶たない。偽装が発覚したことにより、世の中に不安が生じ、偽装の当事者は糾弾される。特定部門の少数名による偽装もあれば、組織のトップ自らが深く関与していることもある。これらは組織に多大な損害をもたらし、時には組織の存亡に関わる事態に発展する。偽装がこのような結果をもたらすのは自明の理であるにもかかわらず、なぜ偽装が行われるのだろうか?

人間は我慢しながら生活している。人間は、自らコントロールできない自然現象や社会現象の中で、そして自ら作り出した価値観・目標・制約の中で、周囲と何らかの関係を持ちながら活動している。自らが、もしくは自らが属する組織体が我慢できなくなったとき、人間はウソをつくことがある。そもそも人間がウソをつくのは、我慢に対処するための誤想過剰防衛なのかもしれない。

人間はウソをつかないように幼少期に教育される。子供が親に頼まれて買い物に行き、誤ってつり銭を多く渡され、気付いているのにだまって自宅に戻り、親に渡す。普通の親はこの子供を叱り、正そうとするであろう。一方で、「おりこうにしていたらサンタさんは必ず来るよ」という大人のウソが許されることもいずれ知るだろう。
しかし、大人になって世の中を見ると、許されないウソをついて金銭的に得をしている人間がいることに気付く。ウソがばれずに誰からも後ろ指をさされなければ、自分もウソをつきたくなるかもしれない。そして複数の人間が集まったとき、誤った集団の価値観に基づいて、一定のウソは許容されると考えてしまうこともある。「このぐらいはいいだろう」、「どうせばれない」、「ウソをつかないことよりももっと大切なことがある」、と。
集団の中でウソをつかせないようにする取組には限界がある。様々なルールをつくり監視をしても、複数の人間の共謀には効果を発揮しない場合がある。だから、ウソをつきたくなる環境を作らないことが大切なのである。
では、組織とその構成員が正直になるために、組織のリーダーには何ができるだろうか? 行動憲章をつくり研修で周知徹底することだろうか? 監査の質を向上させ、頻度を上げることだろうか? たしかにどれも大事だが、何よりも誤った集団の価値観があるならばそれを是正し、正直者が真に得をする風通しのよい風土を作ることが一番である。
家訓を作り、厳命を下し、おかしなことがあれば叱責するだけでは、本当に正直な人間は育たないのではなかろうか? 正直にがんばった子供に、「おりこうだね、えらいね」と褒め続け、明るく仲のよい家庭をつくることが大切なはずである。

では、もし既にウソをついている場合はどうすればよいのだろうか? ウソがばれないためには、ウソの上塗りをする、もしくは墓場までもっていくことなどが考えられるが、それは実現しない。昔は、「神様が見ている」と教えられたものだが、今や組織にとっては、「マルチステークホルダー(様々な利害関係者)も見ている」というのが正しいのではなかろうか? いずれにせよ、先人の言い伝えの通り、ウソはいけないことであるし、必ずばれるのである。
そうであれば、勇気を持って早く告白し是正したほうがよい。「告白すれば叱られるが、ずっと隠しているよりも、告白したほうがよい」というモチベーションが働く仕組みを構築したい。社会制度上の仕組みだけでなく、企業などの組織体の中でも、人間の心理を踏まえた告白を促す仕組みができない限り、これまでの偽装の隠蔽が試みられ、これからも長期間にわたって徐々に発覚しつづける。
たしかに過去を消し去ることはできない。しかし、ウソを認めて謝罪し、償いをし、本当に改心するのであれば、再出発することが許される社会であることを信じて、告白と是正が促進されることを期待したい。

以上

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