コンサルタントコラム

環境省「ブルーカーボン」の吸収量を世界初算定、国連に報告へ

2024.5.30

環境省は2024年2月28日、「ブルーカーボン」による二酸化炭素(CO2)吸収量を世界で初めて算定し、その方法を公開した。4月に温室効果ガスインベントリ(Greenhouse Gas Inventory)に反映させ、国連条約事務局に提出する。

ブルーカーボンとは、沿岸湿地のマングローブや潮汐湿地(沿岸洲や海岸砂丘による埋め立てで生じる湿地)、海草(アマモなど根・茎・葉が区別できる種子植物)・海藻(ワカメなど根・茎・葉の区別がはっきりしない種子植物)、藻場(海草や海藻が茂る場所)で吸収される炭素のこと。対して、陸上の植物が吸収した炭素はグリーンカーボンという。

ブルーカーボンはCO2の吸収率(生きものが排出した量に対する吸収した量)が約30%で、植物の約12%と比較して高く、貯留期間も水中で安定的なため数十年から数千年と長い(植物は数十年~数百年)。日本は藻場やマングローブなどのブルーカーボンを見込める海域の面積が比較的広いことから、海草・海藻とそれらの藻場の両方を含めた吸収量の算定方法を検討していた。そして2023年、環境省温室効果ガス排出量算定方法検討会で算定方法が確定された。海草・海藻・藻場の吸収量の算定方法の提出は世界で初めて。

温室効果ガスインベントリは、自国が1年間に排出・吸収する温暖化効果ガスの量や計算方法等を取りまとめたデータのこと。気候変動枠組条約締約国は毎年1回、関連情報と併せて国連の条約事務局への提出が義務付けられている。

ブルーカーボンによるオフセットの枠組みも始まっている。カーボンオフセットとは、CO2削減努力後にどうしても減らせない排出量を、他者の削減取り組みで創出され、第三者機関が認めた削減量をクレジットとして購入して相殺する仕組み。ブルーカーボンによるカーボンクレジット制度として、ジャパンブルーエコノミ―技術研究会(JBE)が2020年に「Jブルークレジット」の認定を始めた。公的な制度ではないものの、CO2の譲渡総量は2021年の20トンから、2022年は3,733トンに増えている。購入者は商船三井や住友商事、東京ガス、セブン‐イレブン・ジャパンなど100社以上に上り、人気の高さが伺える。しかし、政府が2019年に運営を開始したJ-クレジットの889万トン(2022年)に比べると、まだ規模が小さい。また、購入者に比して創出者が少なく、価格の高騰や検証手続きの煩雑さなどの課題もあげられる。今後市場を拡大できるかがカギとなっている。

ブルーカーボンは、海に囲まれた日本の特性を生かしたカーボンニュートラルの取り組み。藻場や湿地、マングローブの再生のほか、空港や洋上風力などの人工物が新たな藻場となり豊かな漁場を創出できる。ブルーカーボンは気候変動の対策のみならず、生態系の保全や回復、漁業の振興などに同時に貢献できるため、企業にとって活用の可能性は大きい。

【参考情報】
2024年2月19日付 環境省
「我が国インベントリにおける藻場(海草・海藻)の算定方法について」https://www.env.go.jp/content/000203001.pdf

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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.1」(2024年4月発行)の掲載内容から抜粋しています。
ESGリスクトピックス全文はこちらからご覧いただけます。
https://rm-navi.com/search/item/1680

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