
EUがグリーンウォッシュ禁止指令案を採択
2024.6.3
2024年2月20日、EU理事会(閣僚理事会)はグリーンウォッシ ュを禁止するために、「グリーン・トランジションのための消費者権利の強化指令案」(以下、本指令案)を正式に採択した。 グリーンウォッシュとは、英語で「ごまかす」「欠点を隠してよく見せる」という意味の「ホワイト・ウオッシュ(Whitewash)」 と「環境に良い」という「Green」を組み合わせた造語で 、実質を伴わない 、または裏付けのない不明確な環境訴求のことを指す。グリーンウォッシュの問題は、消費者や投資家などが製品や企業を環境に配慮されたものと思い込み、適切な選択肢を選べず、結果的に環境問題が深刻化してしまう点にある。加えて、実際に環境に配慮している企業の努力が隠れてしまう可能性もある。欧州委員会が2020年に行った企業の環境訴求に関する調査によると、EU域内に流通する150件の製品のうち、環境訴求の53%は「あいまい/誤解を招く/根拠がない」、40%は「裏付ける根拠がない」という結果が出ている。
本指令案は、現行の不公正取引方法指令(UCPD:Unfair Commercial Practices Directive)と消費者権利指令(CRD:Consumer Rights Directive)などを改正するものである。改正により、消費者がより環境に優しい、あるいは循環型の製品やサービスを正しく選択できるようにすることを目的としている。企業が環境性能を不当に主張して 誤解を招くような「グリーンウォッシュ」や、予測よりも長持ちしない製品に対する虚偽の主張などの不公正な慣行を取り締まる こととなる。
指令案では、環境や社会への影響、耐久性、修理可能性などの製品の循環性について、誤解を与えてはならない製品の要素と規定 している。環境訴求に関しては、測定可能な目標や達成期限などの現実的な実施計画を伴い、独立した第三者機関による定期的な検証を受けた、明確かつ客観的で検証可能なコミットメントがない場合は 、誤解を招くマーケティング方法として使用を禁止する。原則禁止とするマーケティング方法は以下のとおりである。
- 実証できない一般的な環境訴求の表示を用いたマーケティングを行うこと。
例)「環境に優しい」「エコロジカル」「グリーン」「自然に優しい」「エネルギー効率が良い」「生分解性」「バイオベース」など - 製品や企業活動の一部にのみ該当する環境訴求をもって、製品や企業活動全体に関する環境訴求を行うこと。
- カーボン・オフセットのみに基づき、環境への悪影響が軽減されたなどと訴求すること。
- 公共の機関から発行されているものや、 EU域内で承認された証明スキームに基づいているもの以外のサステナビリティ・ラベルを用いること。
実質を伴う環境訴求は、指令案の適用開始後も認められる。
また、製品の循環性に関する以下のマーケティング方法などを原則禁止とする。 - 通常の使用条件下における耐用期間・強度など、製品の耐久性に関する虚偽の訴求をすること。
- 技術上の理由で必要となる時期よりも早い段階で消耗品の交換を促すこと。
- 製品の製造元以外が提供する消耗品や部品を使用すると故障するなどの虚偽の訴求をすること。
- 機能性向上のためだけのソフトウエアのアップデートを、必要なアップデートと提示すること。
欧州理事会は2023年3月、環境に配慮されていることを実証するための最低条件として、第三者機関による裏付けと認証が必要だとしている。これに違反した企業に対して、罰則として 罰金や公的資金提供の一時的な除外などが含まれる予定となっている。
今後、EU官報への掲載から20日後に施行され、加盟国による国内法化を経て、施行30か月後から適用が開始される。EU加盟国での国内法が整備されば、EU市場で活動する日本企業もその適用を受けることとなる。
グリーンウォッシュ規制の進展は欧州に限ったものではない。米国では、米連邦取引委員会FTCがグリーンウォッシュ防止のためのガイドラインの見直しに着手している(1)。オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)は2023年12月、グリーンウォッシングから消費者を保護することを目的とした、罰則つきの新たな環境およびサステナビリティに関する訴求のガイダンスを発表した(2)。
日本では、現状はグリーンウォッシュに対処する法的な規制は確立していない。グリーンウォッシュに関する規制としては、ISOが定めたISO14021(環境ラベル)規格や、環境省による「環境表示ガイドライン」、「不当景品類及び不当表示防止法」による優良誤認表示規制などがあるが、いずれも法的拘束力はない状況である。
しかし、2022年には「生分解性」を謳っていたプラスチック製のカトラリー類やレジ袋などの表示が「優良誤認」にあたるとして、消費者庁が行政処分を行う事例が発生している。今後は日本でも環境配慮の表示については厳しく取り締まるようになることが予測される。
1)https://www.ftc.gov/legal-library/browse/federal-register-notices/guides-use-environmental-marketing-claims-green-guides
2)https://www.accc.gov.au/media-release/accc-releases-eight-principles-to-guide-businesses%E2%80%99-environmental-claims
【参考情報】
2024年2月20日付 European Commission HP
https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2024/02/20/consumer-rights-final-approval-for-the-directive-to-empower-consumers-for-the-green-transition/
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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.1」(2024年4月発行)の掲載内容から抜粋しています。
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