コンサルタントコラム

日米でGHG排出量の開示義務化の動き強まる

2024.6.3

金融庁は2024年2月19日に開催された金融審議会において、東証プライム企業を対象に、現在策定中のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)の基準に沿って、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報開示を義務化する方針を示した。SSBJ は、昨年6月に公表された国際サステナビリティ基準審議会(1)(ISSB)の基準を踏まえて、日本版の開示基準を策定中であり、2024年3月までに公開草案を示し、2025年3月までに最終化を予定している。

温室効果ガス(GHG)排出量の開示対象範囲はISSB基準を踏まえて、スコープ1(直接排出)とスコープ 2(電力やその他エネルギーの使用による間接排出)だけでなく、スコープ 3(バリューチェーンからの排出)も対象となる見通しだが、一定の経過措置が設けられる可能性もある。

世界でも、GHG排出量の開示義務化が進んでいる。米国証券取引委員会(SEC)は3月6日、気候関連開示規則を採択した(2)。本規則は、米国上場企業に気候関連リスクとリスク管理に関する情報開示を義務付けるもので、開示要求事項にはスコープ1、2のGHG 排出量が含まれる。一方、当初案には含まれていたスコープ3は、企業の算定コストの負担増などの批判を受けて、開示義務化の対象から外された。本規則は米国登録企業だけでなく、外国登録企業にも適用され、米国に上場している日系企業も対象となる。

また、EU では企業サステナビリティ報告指令(CSRD)が1月1日から適用開始となり(3)、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)に基づいて、スコープ1、2、3の開示が求められるようになった。CSRDでは、EU域内にグループ会社を持つ日系企業は開示対象となるため、適用要件を確認する必要がある。

世界各国でGHG排出量の開示義務化が進んでおり、日本ではスコープ3も対象となる公算が高い。スコープ3を未算定の企業は、いよいよ取り組む必要がある。また現状では、企業が開示しているスコープ3は原単位法による推計値が大半で、かつ対象としているバリューチェーンのプロセスも企業ごとに異なる場合があり、比較可能性の観点から懸念が残る。企業側の算定コストとの兼ね合いにはなるが、より合理的な算定手法や仕組みの追求が期待される。


1)国際会計基準の策定機関を傘下に持つIFRS財団が、サステナビリティ情報開示の統一的なルールの作成を目的に2021年11月に設立。2023年6月にサステナビリティ開示基準(S1)、気候基準(S2)の最終版を公表。
2)米国証券取引委員会(FACT SHEET The Enhancement and Standardization of Climate-Related Disclosures)https://www.sec.gov/files/33-11275-fact-sheet.pdf
3)欧州委員会https://finance.ec.europa.eu/capital-markets-union-and-financial-markets/company-reporting-and-auditing/company-reporting/corporate-sustainability-reporting_en


【参考情報】
2024年2月19日付 金融庁HPhttps://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/sustainability_disclose_wg/shiryou/20240326/03.pdf
2024年3月26日付 金融庁HPhttps://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/soukai/siryou/20240219/1.pdf

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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.1」(2024年4月発行)の掲載内容から抜粋しています。
ESGリスクトピックス全文はこちらからご覧いただけます。
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