政府の「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」公表、企業の行動指針と支援策示す
2024.6.13
政府の「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」が2024年3月29日、公表された。環境、農林水産、経済産業、国土交通各省が連名で発表した。本戦略は政府が2023年3月に閣議決定した「生物多様性国家戦略 2023-2030」と、同月に環境省が策定した「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)」をつなぐもの。本戦略は、自社の価値創造プロセスに自然の保全の概念を重要課題(マテリアリティ)として位置づける「ネイチャーポジティブ経営」の実現に向けて、企業の行動指針とそれを支援する国の施策を示す。
ネイチャーポジティブ経営への移行にあたって、本戦略は下表のとおり、5つの行動指針を挙げている。
<ネイチャーポジティブ経営への移行にあたって企業が押えるべき要素(行動指針)>
1. | まずは足元の負荷低減を | 自然資本への負荷の回避・低減を検討した上で、自然資本にポジティブな影響を与える取組を検討(ミティゲーション・ヒエラルキー(1)) |
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2. | 総体的な負荷削減に向けた一歩ずつの取組も奨励 | 総体的な把握・削減を目指す。同時に自然資本との関係を踏まえつつ、事業の一部分から着手することも奨励 |
3. | 損失のスピードダウンの取組にも価値 | 負荷の最小化と貢献の最大化を同時に図ることで、自然資本の回復力も含めたネイチャーポジティブを実現 |
4. | 消費者ニーズの創出・充足 | 消費者ニーズを適切に把握するとともに創出し、ネイチャーポジティブに資する製品・サービスを市場に提供 |
5. | 地域価値の向上にも貢献 | ネイチャーポジティブ経営が地域の生物多様性保全と地域課題の解決に寄与 |
(出典:ネイチャーポジティブ経済移行戦略概要)
本戦略は各企業に、バリューチェーンを含めた負荷の最小化および自然資本への貢献の最大化を求めている。一方で、上述の行動指針を満たしたとしても個々の企業の努力のみでネイチャーポジティブ経営へ移行することは困難で、国の施策による支援や行政・金融機関との連携が必要とした。
そのため、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)提言を踏まえて企業が自然関連リスク・機会を認識・特定し、対応する一連の価値創造プロセスに資する政策の方向性を提示している(下図)。
例えば「リスクの特定」においては、バリューチェーン全体での自然資本との関係性の評価が可能となるようデータ基盤の整備や支援を行うとともに、自然資本への影響量を包括的に測る指標等の検討も進めるとしている。また「リスクへの対応」では、『サステナブル経営推進プラットフォーム(仮称)』の創設を通じて中小企業を含む企業間の互助・協業の推進を図る考えを示した。その上で、今後の課題として①自然資本・生物多様性クレジットやオフセット等の経済的手法の検討 ②自然資本の価値評価を効率的に組み込んで低負荷の製品・サービスの普及拡大を後押しすること ③国土利用や土地利用における自然の保全、復元、再生に関するグランドデザイン――を挙げている。
企業は自然関連リスク・機会への対応を進めるなかで、このような政策動向も踏まえて取り組みを検討していく必要がある。
1)ミティゲーション・ヒエラルキー(影響緩和ヒエラルキー)
環境保全措置を検討する際の優先順位または階層。回避、低減(最小化)、復元、オフセットの順で、事業が生物多様性と生態系サービスに与えるマイナスのインパクトを可能な限り軽減するための考え方。
【参考情報】
2024年3月29日付 環境省 HP https://www.env.go.jp/press/press_03041.html
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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.2」(2024年5月発行)の掲載内容から抜粋しています。
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