コンサルタントコラム

「重要経済安保情報保護・活用法案」が衆院本会議で可決

2024.6.14

「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」が2024年4月9日、衆院本会議で可決された。本法案は、政府が保有する経済安全保障上重要な情報として指定された情報へのアクセス資格を付与する制度(いわゆるセキュリティ・クリアランス)を定めたものであり、今後参院での審議を経て成立する見通し。

本法案の主な内容は以下のとおりだ。

  1. 重要経済安保情報の指定
    重要経済基盤(重要なインフラや物資のサプライチェーン)に関する一定の情報(重要経済基盤保護情報(1))で、公になっていないもののうち、漏えいした場合に国の安全保障に支障を与えるおそれがある情報を、「重要経済安保情報」として行政機関の長が指定する(特定秘密(2) および特別防衛秘密(3)に該当する情報を除く)。有識者会議の最終とりまとめ(4)では、対象となる情報として、サイバー脅威・対策等に関する情報やサプライチェーン上の脆弱性関連情報等が例示されている。
  2. 民間企業に対するセキュリティ・クリアランス
    民間企業が重要経済安保情報の提供を受ける場合、適合事業者としての認定を受けることが必要となる。適合事業者の基準については、「重要経済安保情報の保護のために必要な施設設備等を設置していることその他政令で定める基準」(法案第10条1項)と定められており、今後制定される政令で詳細な基準が示される見込みである。
  3. 情報取扱者(従業員)へのセキュリティ・クリアランス
    企業が重要経済安保情報を取り扱う業務を行わせる従業員は、適性評価において信頼性の確認がされた者に限定される。適性評価は、行政機関の長によって本人の同意を得た上で実施される。適性評価にあたっては、以下の事項についての調査(適性評価調査)が行われる。
    • 重要経済基盤毀損活動(5)との関係に関する事項
    • 犯罪及び懲戒の経歴に関する事項
    • 情報の取扱いに係る非違の経歴に関する事項
    • 薬物の濫用及び影響に関する事項
    • 精神疾患に関する事項
    • 飲酒につ いての節度に関する事項
    • 信用状態その他の経済的な状況に関する事項
    なお、適性評価調査は、適性評価を行う行政機関の長の求めに応じて、原則として内閣総理大臣(具体的には内閣府)が政令で定める方法で一元的に実施することとされている。
  4. 罰則
    当該情報を漏えいした際には、罰則として5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、または両方が科せられる。さらに、両罰規定により行為者だけでなく法人に対しても罰金刑が科される。

本法案が成立した場合、企業はセキュリティ・クリアランスの獲得により、経済安全保障分野における政府調達などの事業に参画することが可能となり、ビジネスチャンスに繋がると考えられる。

また、日本のセキュリティ・クリアランス制度が外国政府から承認された場合、これまで同制度が存在しなかったために参画できなかった外国の機微情報を扱う国際共同事業への参画など、将来的に国際的な事業領域拡大に繋がることも期待できる。

セキュリティ・クリアランス取得を目指す企業においては、適性評価の対象となる従業員のプライバシーの尊重に努めながら、十分な事前説明や同意取得を行い、また、同意を拒否したり、取り下げたりした場合においては そのことを理由とする不利益取扱いを行わないことが必要となる。従って、企業は、これらの点に留意して適性評価対象者の選定に係るプロセスを定めることが求められる。

また、現時点においては適合事業者の基準は明らかになっていないものの、制度の趣旨から、専用区画の設置などの厳格な情報管理体制が求められることが想定される。セキュリティ・クリアランスの取得を目指す企業においては、今後の動向を注視し、要求される情報管理体制の整備に取り組むことが必要であろう。

1)重要経済基盤保護情報とは、重要経済基盤に関する情報であって以下の事項に関するもの。(「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」第2条4項)
 ① 外部から行われる行為から重要経済基盤を保護するための措置又はこれに関する計画もしくは研究
 ② 重要経済基盤の脆弱性、重要経済基盤に関する革新的な技術その他の重要経済基盤に関する重要な情報であって安全保障に関するもの
 ③ ①の措置に関し収集した外国の政府又は国際機関からの情報
 ④ ②の情報の収集整理又はその能力

2)特定秘密は、「特定秘密保護法」第3条第 1項に定義されている。

3)特別防衛秘密は、「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」第 1条第 3項に定義されている。

4)有識者会議(経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議の最終とりまとめは、内閣官房の公開文書。(2024年1月19日) (https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r5_dai9/siryou10.pdf

5)重要経済基盤毀損活動とは、「重要経済基盤に関する公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動その他の活動であって、外国の利益を図る目的で行われ、かつ、重要経済基盤に関して我が国及び国民の安全を著しく害し、又は害するおそれのあるもの並びに重要経済基盤に支障を生じさせるための活動であって、政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人を当該主義主張に従わせ、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で行われるもの 」 (「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」第12条2項1号)

【参考情報】
衆院HP: https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/~

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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.2」(2024年5月発行)の掲載内容から抜粋しています。
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