コラム/トピックス

自転車の「ながらスマホ」11月から罰則強化 どう変わる?企業が行うべき対策は?

[話を聞いたコンサルタントと研究員]

福島康
専門領域
運輸安全マネジメント、交通リスクマネジメント
役職名
リスクマネジメント第二部 副部長
氏名
福島 康 Yasushi Fukushima
新納康介
専門領域
食料安全保障、マイクロファイナンス
役職名
基礎研究部 主席研究員
氏名
新納 康介 Kousuke NIIRO

2024.11.8

この記事の
流れ
  • 自転車の「ながらスマホ」に適用されるようになった罰則は?
  • 罰則強化の背景にあるのは?
  • 罰則強化で企業側が対応すべきこととは?
  • そもそも、なぜ「ながらスマホ」をしてしまうのか?
  • 人は自らが思っているほど合理的に行動ができない
  • 「ながらスマホ」の背景にある脳のメカニズムに対する理解を深めていく必要も

2024年11月1日から、自転車を運転中にスマホを使用する「ながらスマホ」に対する罰則が強化されました。
罰則がどのように強化されるのか?その背景には何があるのか?企業は今回の道路交通法改正に合わせて、どんな対策を行う必要があるのか。
MS&ADインターリスク総研で運輸安全/交通リスク分野を専門とする福島康副部長と、リスクマネジメントに関する調査研究を行っている新納康介主席研究員に話を聞きました。

自転車の「ながらスマホ」に適用されるようになった罰則は?

ーー11月1日から改正道路交通法が施行され、自転車を運転中にスマホを使用する「ながらスマホ」などに対する罰則が強化されました。具体的にどのような罰則が適用されるのですか?

福島)前提として、今回の改正道路交通法は、自転車のみを対象に新たに制定されたわけではなく、自動車を運転している際のカーナビの注視やスマホの通話・保持といった「ながらスマホ」を対象としていた従来からの罰則が、自転車にも拡大して適用されるというものといえます。

つまり、すでに自動車の「ながらスマホ」に対しては、6か月以下の懲役または10万円以下の罰金が適用されていますが、同様の罰則が自転車の「ながらスマホ」にも適用されるようになります。また、「ながらスマホ」によって交通事故を起こした場合も自動車と同様に、1年以下の懲役または30万円以下の罰金が適用されることになります(表1)。

<表1 自転車の「ながらスマホ」に適用される罰則>

  • スマホなどを手に持ち通話のために使用しながら自転車を運転した場合
  • スマホなどの画面に表示された画像を手に保持して注視しながら自転車を運転した場合
6か月以下の懲役または10万円以下の罰金
  • スマホなどを使用または画像を注視しながら自転車を運転して、事故などの交通の危険を生じさせた場合
1年以下の懲役または30万円以下の罰金

「ながらスマホ」の罰則対象が、自動車だけでなく自転車にも適用されることになりますので、自転車に乗る人は、これだけ罰則が強化されているということをしっかりと認識していただく必要があります。

罰則強化の背景にあるのは?

ーー今回の罰則強化の背景にはどんなことがあるのでしょうか?

福島)自転車に乗っている人がスマホといった携帯電話等を使用していることが原因となる交通事故が増加傾向にあることが背景にあります。警察庁によりますと、2023年の自転車運転中の携帯電話使用等が原因となった交通事故の件数は139件と、2014年に比べて2倍に増えています(図1)。

<図1 自転車(第1当事者)の運転者が携帯電話等使用であった場合の交通事故件数の推移>

図1
出典:警察庁「やめよう!運転中のスマートフォン・携帯電話等使用」※1

被害者にとっては、加害者が自動車やバイクであろうが自転車であろうが、結果の重大性は同じです。自転車も自動車と同じ“車両”ですから、自動車と同様に事故を起こした場合にそれなりの罰則を設けることによって、事故を減らしたいということが背景の1つとして挙げられます。

また自転車は、以前は“交通弱者”というような位置付けでとらえられることもありましたが、自転車による事故が依然多く発生していることから、警察は近年、自転車の走行レーンに関して「車道が原則、歩道は例外」といった交通ルールの周知に力を入れてきました※2。その間も、自転車による信号無視や危険な運転などが社会問題化したり、重大な事故が起きたりすることもありました。その意味でいうと、自転車も車と同じで“加害者”になりうるのだという社会の意識の変化の中で、自転車についても罰則を強化していこうという流れになっていると認識しています。

罰則強化で企業側が対応すべきこととは?

ーー企業としては、今回の自転車の「ながらスマホ」に対する罰則強化にあわせて、どんなリスクに備えてどんな対策を検討する必要がありますか?

福島)まず、企業として考えるべきリスクは以下のようなものが挙げられます。

  1. 社員が処罰を受けるリスク
  2. 社員に業務として自転車を使用させている際の交通事故リスク
  3. 企業の評判を損ねるリスク

(1)についてですが、罰則が強化されたことを知らない社員が処罰を受けるリスクがあります。場合によっては懲役刑になるわけです。ですから、会社としても道路交通法の改正内容を社員に伝えることが重要です。また、通勤でマイカー(バイク、自転車を含む)の使用を許可制にしてないのであれば許可制にして、マイカーをすでに許可制にしているのであれば、許可する際に「『ながらスマホ』はしません」といった誓約をしてもらうことも大切です。ただ、社員が自転車を通勤のみに使っているということであれば、基本的にはマイカー通勤と同じで労働時間外のことですから、通勤中の事故による企業の責任を問われるケースは少ないと思います。

続いて(2)についてです。会社によっては、配送やポスティングといった業務に自転車を使用するケースもあると思います。この場合は、会社として社員に自転車を業務上使用させるわけですから、管理・指導が重要になってきます。罰則が強化されているにもかかわらず、「ながらスマホ」を黙認するようなずさんな管理をしていれば、会社にとっても責任が重くなってくることになります。業務で自転車を利用する際に地図を確認するなどのやむを得ない理由でスマホを使用する場合は「地図の確認は停止して行う」というルールを定めたり、保持・通話を行わないよう、「注視をしない前提で」ハンドルの部分に取り付けられるスマホホルダーを会社が支給したりする対応も選択肢の一つになってくると思います。

最後の(3)については、法律で「ながらスマホ」に対する罰則が強化され、社会的にも関心が集まっている中、社員が処罰を受けてしまうと「ルールを守れない会社」として、評判を損ねるおそれがあります。その意味でも、社員に向けてしっかりと啓発をしていくことが大事です。

そして何よりも大切なのは、自転車に乗る当事者本人が、「自転車は決して交通弱者ではなくて、自動車と同じように道路交通法を守らなければいけない立場」ということを認識することです。また、自転車を運転して事故を起こした人の中には、無保険だったため、賠償資力がなく、被害者に賠償金を支払うことができない状況になってしまっている人もいます。事故の損害賠償責任は当然加害者側にあるのですが、こうした事態にも備えて、歩行者の側でも保険に加入するなど自らを守る対策をとる必要もあると思います。

そもそも、なぜ「ながらスマホ」をしてしまうのか?

ーーここからは、歩きスマホに関する実態と意識などについて調査※3を行ってきた新納主席研究員に話を聞きます。そもそもですが、今回の罰則強化の前からスマホを見ながら自転車を運転する「ながらスマホ」は危険な行為だと広く知られていると思うのですが、なぜ「ながらスマホ」をしてしまうのでしょうか。

新納)根本にあるのは“スマホ依存”の弊害が挙げられると思います。スマホは、今では日常生活に欠かせないデバイスですが、“スマホ依存”が明らかなものとして、スマホを片時も手放せなくなるという症状があります。手放せない理由として、“スマホ依存”とみられる人たちは「SNSをリアルタイムでチェックしたい」「メッセージをすぐに返信したい」といったことを挙げるのですが、私としては、「ながらスマホ」が引き起こす恐れがある事故の危険性と比較して、利用者が「ながらスマホ」をすることにアンバランスさを感じています。そもそも、スマホ画面を凝視している状態では、人間の視覚的・聴覚的注意は著しく失われるので、運転中の「ながらスマホ」は適切な行動ではありません。

人は自らが思っているほど合理的に行動ができない

ーー「ながらスマホ」が引き起こすリスクと、「ながらスマホ」をしてしまう理由がアンバランスに感じるとのことですが、そのギャップはどこから生じるのでしょうか。

新納)人は、直感、偏見、錯覚、一方的な思い込み、誤解などにより、自らが思っているほど合理的には行動ができないことが明らかになっています。このような心理現象を認知バイアスと呼ぶのですが、その中の1つに「自分は大丈夫」と考えてしまう「正常性バイアス」というのがあります。「ながらスマホ」の場合だと、その行為が危ないと言われていても、正常性バイアスによって「自分だけは大丈夫」という過信が生じてしまうと考えられます。

「ながらスマホ」の背景にある脳のメカニズムに対する理解を深めていく必要も

ーー「ながらスマホ」をしてしまう人が、そうした行為をしないようにするために必要なことはありますか?

新納)認知バイアスの中にはもう1つ厄介なメカニズムとして「自己正当化バイアス」というものがあります。これは「自分は悪くない」という認知上のバイアスがかかってしまうものです。このバイアスがかかっている人に対して頭ごなしに「やめろ」「ダメだ」と伝えるのは、あまり効果を生まないと言われています。今回の改正道路交通法による罰則強化は、「ながらスマホ」をしないようにするための対策のひとつではありますが、そもそも「ながらスマホ」の背景にある「スマホ依存」の危険性に対する理解を深めていく必要もあると思います。

1)警察庁「やめよう!運転中のスマートフォン・携帯電話等使用」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/keitai/info.html
2)警察庁「自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/info.html
3)歩きスマホに関する実態と意識について ~アンケート調査結果より~ リサーチ・レター2020年第2号
https://rm-navi.com/search/item/1131

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