コラム/トピックス

OSINTとは?意味と仕組みについて分かりやすく解説

2024.11.25

現代の企業や国家は、デジタル情報が溢れる中で、いかにして正確な情報を得るかが競争力や安全保障における重要な要素となっています。
SNSの投稿やニュース、ブログ、さらには公開された政府データなど、日常的にアクセスできる情報は膨大で、その活用方法が課題です。近年のサイバー攻撃の増加や、国際的な競争激化の中で、こうした公開情報を活用し、リスクを予測・管理する手法として注目されているのがOSINT(Open Source Intelligence)です。

OSINTは、リスクを予測・管理するために欠かせない情報収集手法となっています。この記事では、OSINTの仕組みや実用的な活用方法について詳しく解説します。

OSINTの定義

OSINT(Open Source Intelligence)は、公開されている情報を活用して行う情報収集および分析の手法です。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の『脅威インテリジェンス 導入・運用ガイドライン』によると、次のように定義されています。

OSINT(Open Source Intelligence)とは、ニュース、SNS、専用ツールなどをもとに、公開情報からデータ収集を行う方法である。

出典:IPA(独立行政法人情報処理推進機構)『脅威インテリジェンス 導入・運用ガイドライン』

つまり、新聞記事やWebサイト、SNSの投稿など誰でもアクセスできる情報を集め、それを分析して有用なインテリジェンスを導き出すことが、OSINTの基本的な考え方です。

この手法は、サイバーセキュリティの分野で特に注目されています。OSINTを活用することで、組織や個人の脅威を早期に発見したり、攻撃者の動向を把握したりすることが可能です。加えて、企業や国家の安全保障、ジャーナリズムの現場でも幅広く利用されており、特定の目的に合わせたインテリジェンスの生成が行われています。

インテリジェンスとは…「諜報活動」という意味で用いられることが多く、国家の安全保障や政治や経済活動における駆け引きに欠かせない情報活動です。ことサイバーセキュリティの分野では、脅威の早期発見やリスク管理を目的に、ネットワーク上で公開された情報を収集・分析する「サイバーインテリジェンス」として活用されています。

OSINTのプロセス

OSINTのプロセスは、公開情報を効果的に収集・整理・分析し、それを目的に応じて活用する一連の手順に基づいています。このプロセスは、複数の段階を経て、信頼性の高い情報を引き出し、最終的な意思決定やアクションに活かすために重要です。以下に、4つのプロセスを順に説明します。

プロセス1.情報の収集

最初に行うのは、膨大な公開情報の収集です。この段階では、SNSやニュース、ブログ、動画配信サービス、さらには地図情報や政府機関のデータなど一般的に公開されているものや、IPアドレス、アクセスしたポート、特定ファイルのハッシュ値など外部からアクセス可能なデータを収集します。

プロセス2.情報の整理

次に、収集されたデータを仮説を持って分析し情報化します。
この段階では、データの正確性や信頼性の確認も行います。収集したデータを評価し、不要なものを排除すると効率的な分析作業につながります。特に、同じ情報でも異なる見解や対立するデータが存在することもあるため、これらを仮説に合わせて分析し高い価値を持つ情報に整理します。

プロセス3.情報の分析

整理された情報をもとに、分析を行います。
このプロセスでは、データの相関関係やパターンを見つけ出し、特定の目的に役立つ結論を導き出します。例えば、サイバー攻撃の兆候を探る場合、攻撃者の過去の行動パターンや関連する技術的情報を組み合わせてみると、今後の脅威を予測できる可能性があります。情報の分析は、最終的な戦略や意思決定に直結する重要なプロセスです。

プロセス4.情報の活用

最後に実施するのが、情報の活用です。セキュリティリスクの特定やマーケティング戦略の立案、あるいは国家の安全保障に関わる意思決定など、様々な分野で活用されます。OSINTは、正確かつ効率的な情報活用を可能にするため、適切に実施すれば大きな効果を発揮します。

OSINTの利用方法

OSINTは、その特性から様々な分野で活用されています。例えば、国家の安全保障やジャーナリズムでも活用されていますが、ここではセキュリティ対策を例として解説します。

企業や組織は、OSINTを活用すると自社に対する潜在的な脅威を早期に発見し、以下のようなセキュリティ対策を強化できます。

  • 【サイバー攻撃の兆候検知】ハッカーフォーラムやダークウェブなどを監視して、自社を狙った攻撃の計画や、新たな攻撃手法に関する情報を入手し、攻撃を未然に防いだり、被害を最小限に抑えたりすることが可能
  • 【脆弱性情報の収集】公開されているセキュリティアドバイザリーやベンダーの発表などを分析して、自社システムの脆弱性を把握すれば必要な対策を講じることが可能

例えば、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)では「重要なセキュリティ情報」が公開されています。定期的に脆弱性情報を確認しておけば、対策が必要な場合にすぐに対応できます。

サイバー攻撃として利用されるOSINT

OSINTはセキュリティ対策に役立つ一方で、サイバー攻撃者が悪用する可能性があることを忘れてはいけません。 具体的にOSINTが悪用されるケースについてみていきましょう。

OSINTの悪用を防ぐためには、以下のような対策が重要です。

通信機器の脆弱性発見
  • 機器検索エンジンによる脆弱な機器の発見
  • 漏洩した認証情報による認証突破
標的型攻撃の準備
  • 攻撃者は、OSINTを用いて標的となる組織や個人の情報収集をする
  • 企業のウェブサイト、従業員のSNS、公開されている財務情報などは、攻撃者にとって貴重な情報源となる
  • 情報分析で、組織の脆弱性や個人の行動パターンを把握し、効果的な攻撃計画を立てる
フィッシング詐欺
  • 収集した情報をもとに、標的を騙すための巧妙なフィッシングメールを作成
  • 実在する人物や組織になりすまし、標的が興味を持ちそうな情報を含める
  • 警戒心を解き、個人情報や認証情報を盗み出す
ソーシャルエンジニアリング*1
  • 得た情報を活用し、標的との信頼関係を築き、情報を引き出したり、不正な行動を促したりする
  • 標的の趣味や興味、交友関係などを把握し、言葉巧みに操る
  • 標的を騙し、情報を盗み出したり、マルウェアに感染させたりする
公開情報の管理
  • 不用意に個人情報や組織情報を公開しない
  • SNSでの発信内容や、公開範囲の設定には注意する
  • ASMなどを用いて、アクセス可能な資産とその脆弱性を管理する
  • 結果として攻撃面を小さくし、攻撃者にとっての優先順位を下げる
セキュリティ意識の向上
  • フィッシング詐欺やソーシャルエンジニアリング*1の手口を理解する
  • 不審なメールや連絡には警戒心を持つ
  • 安易に個人情報や認証情報を提供しない

OSINTは、使い方次第でセキュリティ対策にもサイバー攻撃にも利用される可能性があります。OSINTの特性を理解し、適切に活用して、安全な情報収集とセキュリティ対策を実現しましょう。

*1 ソーシャルエンジニアリング:ネットワークに入るために必要なパスワードやアカウント情報をインターネットなどを介さずに入手する方法のことを指します

OSINTのリスクと対応策

OSINTの情報源は誰でもアクセス可能であるため、リスクも伴います。これらのリスクを理解し、適切な対応策を講じることで、安全かつ効果的にOSINTを活用できます。

以下3つのリスクについて解説します。

情報の正確性と信頼性

OSINTの情報源は誰でもアクセス可能なため、誤情報、偏見、古い情報などが含まれている可能性があります。特にソーシャルメディアやブログなど、個人が発信する情報には注意が必要です。

誤情報、偏見、古い情報などを避け、正確性と信頼性を確保するためには、以下のような対策が必要になります。

複数の情報源を比較検討する 複数の情報源から情報を収集し、内容を比較検討することで、情報の正確性を確認する
情報源の信頼性を評価する 情報源の信頼性を評価する基準を設け、信頼できる情報源からの情報のみを利用する
ファクトチェックを行う 情報の真偽を確認するために、信頼できる情報源を活用する

OSINTの情報源は誰でもアクセス可能であるということから、信頼できる情報源であるかどうかの確認が大切です。

情報に対する倫理

OSINTで収集する情報は、公開情報とはいえ、個人のプライバシーに関わる情報が含まれる場合があります。情報収集や利用にあたっては、倫理的な配慮が必要です。

対策として、個人情報保護法などの関連法規を遵守し、個人情報の収集・利用・保管には十分注意しましょう。個人のプライバシーを侵害するような利用は避け、倫理的に問題のない範囲での情報収集でなければいけません。

まとめ

この記事では、OSINTの基本的な定義からその仕組み、具体的な活用方法やツール、さらにリスクとその対応策まで幅広く解説してきました。

OSINTは、公開情報を利用して精度の高いインテリジェンスを生成する手法であり、サイバーセキュリティや国家安全保障、マーケティング、ジャーナリズムといったさまざまな分野で重要な役割を果たしています。企業や組織にとって、潜在的なリスクや脅威を事前に察知し、迅速な対策を講じることが可能となるため、競争力や安全性の向上に欠かせないツールとなりつつあります。

一方で、OSINTを悪用したサイバー攻撃のリスクも現実の脅威として存在しています。組織や個人の情報管理が適切でないと、攻撃者にとっては重要な情報源となりかねません。したがって、情報を収集・分析する能力を向上させるだけでなく、公開情報の管理やセキュリティリスクの防止策を強化することも同時に求められます。

今後もOSINTは、デジタル時代においてますます重要性を増し、情報収集とリスク管理の基盤となるでしょう。そのため、OSINTを適切に活用し、リスクを最小限に抑えながら最大限の効果を引き出すための取り組みが欠かせません。

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